研究課題
本研究は、留学生の精神的健康を促進するため、カウンセリング心理学の予防的介入視点から、包括的な支援モデルを開発することが目的である。近年、日本の高等教育機関に在籍する留学生数は増加しており、多文化背景を持つ留学生の支援方法が課題となっている。本研究には二本の柱があり、【研究1】では、質的手法を用いて留学生が頻繁に直面する壁や文化変容を調査し、支援モデルに必要な要素を明らかにすること、【研究2】では、留学生を多く受け入れている国の留学生支援体制を調査し、留学生のニーズに応用させながら支援モデルを構築することである。本年度は、本格的な調査の開始準備を行った。具体的な成果は以下の通りである。1.先行研究より、留学生が頻繁に直面する問題と実践されている予防的支援の検討を行った。その結果、留学生のストレスは、慣れない言語での生活、修学環境や学習スタイルの違い、ソーシャルサポートの喪失、アイデンティティの変容、差別等、文化変容に起因するものが多く挙げられた。また、予防的支援プログラムの多くは、留学生を多く受け入れている英語圏で実践されていることが判明した。2.過去の留学生相談記録や留学生教育現場を検討したところ、留学生の精神的健康には幾つかの要因が関わっていることが推測できた。そこで、質的調査で検討する事項に、時系列(渡日前、渡日直後、その後)による留学、日本、母国への心情の変化・渡日理由・渡日後直面した困難・日本語レベル・文化変容に関する事柄・偏見や差別経験・家族との関係とソーシャルサポート・アイデンティティの変遷を含めることとした。3.ヨーロッパキャリアカウンセリングプログラム及び米国心理学会年次大会に参加し、予防的支援の情報収集と海外調査先の開拓を行った。数名の研究者が本研究内容に興味を示し、調査依頼の承諾を得た。
2: おおむね順調に進展している
本来であれば、本年度から予備的調査として面接調査を開始する予定であったが、予定を変更して、研究代表者が過去に行った留学生相談、留学生支援、留学生教育を再考察してから、面接調査の内容を検討することとした。そのため、予定していた予備調査は開始できていないが、代わりに、予定していなかった予防的支援の各論について検討することができた。その他の点についてはほぼ予定通りに進んでいる。具体的には、留学生の予防的支援に関する先行研究を調査することで、予防的支援モデルの全体像が構築され始め、また、海外調査先の選定も可能となった。さらに、留学生支援の文献は英語圏で行われた研究や実践が多いのだが、英語圏以外での留学生支援体制も調査することが重要と捉え、来年度より開始予定である海外調査先として社会的背景や留学生の修学状況が異なる2カ国(アメリカとデンマーク)を選び、数大学との調整が進んでいる。
平成27年度の結果に基づき、平成28年度は質的調査および海外調査を開始する。具体的には、質的調査を倫理的かつ安全に調査を進めるため、本学の人文社会系研究倫理審査委員会に諮り、その後、参加協力者を募り面接を行って、質的データを収集する。収集したデータを書き起し、留学生の文化変容とニーズを検討し、予防的支援に組込むべき要素を検討する予定である。さらに、海外調査に行く前には、調査国の留学生の受入れに関する背景や現状の情報収集を行うことで、より円滑な海外調査を行う予定である。
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筑波大学グローバルコミュニケーション教育センター日本語教育論集
巻: 31 ページ: 147-158
巻: 31 ページ: 183-195