対象地域の海岸帯水層の水収支を推定するために、上流の涵養域を対象として流域水収支モデルのSWATを適用した。モデル計算のキャリブレーションは、対象流域から下流端のダム貯水池への流出量を基におこなった。流出量は、ダム貯水池の日データ(水位、降水、蒸発、取水)のデータより、日収支を計算し算出した。そのデータをSWATで出力される流出量と比較し、モデルパラメータのチューニングを行った。キャリブレーションおよびパラメータのチューニングは、SWAT-CUPを用いておこなった。流域水収支計算を降水量の異なる年の3ケースで行った。 出力される地下水流出量を上流から海岸帯水層への地下水流入量と仮定し、併せて帯水層上の蒸発散、地下水揚水量を考慮し、帯水層の年間の水収支を計算した。その結果、現在の地下水用水量で年間降水量が平年値の場合、地下水位の変動は少ないという結果が得られた。一方、年間降水量が平年値を下回る場合は、地下水位が低下することが示唆された。対象地域において最近10年間は平年値を下回る傾向にあり、渇水年が続いている。そのような状況では、これまでのような地下水利用では、持続的な地下水利用は難しいことが示唆された。 今後は、海岸帯水層内の地下水流動計算を行う予定であるが、そのために必要な気象観測用の機器をダム貯水池の管理所内に設置した。以降現地の共同研究者の協力を得て、データを収集する。また、地下水流動計算は、既往研究の境界条件にてテストケースを計算しており、既往研究と同様の結果を得られている。今後はこれまでに本研究で得られている灌漑用水量のデータや上流域からの地下水流入量等を境界条件に加えて計算を行い、現地観測結果と比較しパラメータの設定等を行う。最終的にそれらの境界条件の影響が対象地域内の地下水流動に与える影響を定量化するとともに、持続的な地下水利用の提言を行いたいと考えている。
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