環境要因によって引き起こされる肥満の発症機序を明らかにするため、環境要因の影響を受けることが知られている遺伝子発現調節機構であるDNAメチル化に注目した。視床下部摂食代謝中枢は、エネルギーバランスの制御に重要であることから、視床下部摂食代謝中枢におけるDNAメチル化修飾の役割に焦点を当てて研究を進めてきた。これまでの研究により、DNAメチル基転移酵素のDNMT3aを、視床下部摂食代謝中枢を構成する領域である視床下部室傍核特異的に欠損させたマウスにおいて、肥満の発症が起こることを明らかにしてきた。また、このマウスにおいて、視床下部室傍核におけるチロシン水酸化酵素(TH)の発現が著しく増加していることを見出している。そこで本課題では、THの発現増加が、DNMT3a欠損による肥満の発症に必須であるかを調べた。視床下部室傍核特異的DNMT3a欠損マウスがコントロールと比較して体重の増加を呈したのに対し、DNMT3aおよびTHを視床下部室傍核特異的に欠損させたダブル欠損マウスは、コントロールと比較して体重の変化を呈しなかった。また、THのみを視床下部室傍核特異的に欠損させたマウスも体重の変化を呈しなかった。免疫組織化学によりTHニューロンの欠損領域を調べたところ、視床下部室傍核の内側大細胞性領域のTHのみが特異的に欠損していることが明らかになった。これらのことから、視床下部室傍核特異的DNMT3a欠損による肥満の発症には、視床下部室傍核の内側大細胞性領域のTHの発現増加が関与していることが明らかになった。視床下部室傍核内側大細胞性領域における、DNMT3aによるTHの発現調節が、体重の調節や肥満の発症に重要な役割を果たしていると考えられる。
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