平成27年度の実績報告書では,「マクスウェル方程式の低周波近似による商用電源・接地系統のモデル化」をやや前倒しで開始した旨を記述した.平成28年度も,予定通りではあるが,この課題を中心に検討を行った.当初は数ヶ月以内に基礎理論をまとめられると予想していたが,試行錯誤が多く必要だったため,最終的には1年以上の時間を費やすことになった.研究計画書ではStevenson's methodやそれを基にしたインピーダンス法,SPFD法なども候補に挙げていたが,最終的にはモーメント法における自己・相互インピーダンスを周波数に関して冪級数展開し,ここから等価回路を導く方法を見出した.これと似た手法として,部分要素等価回路法(PEEC法)があるが,開発した手法は放射損失の効果をモデル化できることをはじめとして,PEEC法よりも高精度であることを確認した.上記の内容は,今後研究会や学術論文等で発表予定である. また,平成27年度から引き続き,人体通信チャネルにおいてノイズ源となりうるフライバック型AC-DCコンバータ回路によって3線ACケーブルに励起される電流モードについて検討を行った.平成27年度は回路シミュレーションによる検討を行ったが,平成28年度は実測をベースに検討を行った.シミュレーションによる予想通り,ディファレンシャルモード電流とコモンモード電流だけではなく,3線を同じ向きに流れる電流モードが発生することが確認された.この内容も,今後研究会や学術論文等で発表予定である. さらに,姿勢変化を含んだ動的人体通信チャネルの統計的モデリング手法を考案し,複雑な確率密度関数を有限個のガウス分布の重ね合わせでモデル化できることを確認した.
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