研究課題/領域番号 |
15K20906
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
槇 靖幸 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (50400776)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コロイド / ガラス / 食品 / レオロジー |
研究実績の概要 |
昨年度構築した微粒子追跡システムを用いて、ニュートン流体中の微粒子の運動をデジタルビデオカメラに記録し、微粒子の平均二乗変位のデータから媒質流体のレオロジー的性質を測定できることを確認した。ゲル化やコロイドガラス形成における臨界点付近では、低粘度の液体的挙動から粘弾性的挙動への変化が生じる。粒子追跡法においては、特に低粘度液体の測定において、装置の振動や試料の対流が正確な測定への妨げになる。このため、顕微鏡用の徐震プラットフォームを導入する改良を行い、より正確な計測を可能にした。粒子追跡法により食品関連ソフトマターのゲル化現象を観察することを目的として、5.0 wt%ゼラチン水溶液に微量の直径600 nmのポリスチレンビーズを分散した溶液について、粒子追跡法の実験を行った。50℃から温度を下降させると、ゼラチンの粘度上昇に伴って微粒子の運動が次第に抑制され、ゲル化点付近の26℃で微粒子の運動は顕著に抑制された。レオメーターによる動的粘弾性測定では、ゼラチンは26℃で最初は低粘度液体であるが、貯蔵弾性率が緩やかに増加して数時間後にゲル化した。粒子追跡法では、通常のレオメーターでは正確に測定困難なゲル化初期のレオロジーの変化が検出できる可能性があることがわかった。ゼラチンゲルのエイジング過程において温度変化を加えると、ゲルの弾性率が特徴的な変化を示し、これがガラス状物質のメモリー効果に類似していることを以前に報告した。これに関して、巨視的なレオロジーと旋光性のデータの詳しい解析から、ゲルの架橋領域を構成するゼラチンのヘリックス構造の熱安定性の分布(熱安定性の異なるヘリックスが共存していること)がゼラチンゲルのレオロジーの特徴的な経時変化と関連していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
微粒子追跡システムを用いて試料のレオロジー的性質を定量化する際、測定の再現性に困難があり、その原因の究明のために研究の遅れが生じた。最終的に、装置の振動や試料の対流が予想以上に実験の大きな妨げとなっていることに気が付き、顕微鏡用の徐震プラットフォームを導入することで問題は改善された。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度合成方法の検討を行ったN-イソプロアクリルアミド(NIPA)ゲル微粒子について、ゲル微粒子分散液を遠心操作によって濃縮できることを今年度に確認済みである。これにより、コロイドガラスのモデル系となるゲル微粒子濃厚分散液を作製できる見込みである。ゲル微粒子濃厚分散液のコロイドガラス形成を、系内に微量添加したポリスチレンビーズの粒子追跡法測定・局所粘弾性評価により調べ、巨視的なレオロジー測定結果と比較する。得られる結果は、食品関連ソフトマターにおけるゲル化とコロイドガラス形成との関連を検討するために用いる予定である。食品関連ソフトマターに関しては、ゼラチンゲルのゲル化点近傍における微小なレオロジーの変化、特にエイジング過程について詳しく調べ、巨視的なレオロジー測定との比較・検討を行う。別の食品関連ソフトマターとして、血清アルブミンゲルについても同様の実験を実施する。また、食品関連ソフトマターの局所粘弾性に対するずり変形の効果を調べるためのシステム構築を進める。試料の振動が測定自体に大きな影響を与えることを考えると、当初考えていたマイクロメーターヘッド等を利用した試料セルは不適当である可能性がある。代わりにピエゾアクチュエーター等の微小な変位を精度よく加えることができる装置の利用を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
微粒子追跡システムを用いて試料のレオロジー的性質を定量化する点に困難があって研究の遂行が予定よりやや遅れ、試料にずり変形を加えるためのシステム構築の検討を行うことができなかった。このため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
装置の改良により、最終的には、微粒子追跡システムにより試料のレオロジー的性質の定量化が可能になったため、試料にずり変形を加えるシステム構築のための部品に予算を使用する予定である。
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