試料中に分散したサブミクロンサイズのコロイド粒子の変位を計測することで試料の局所的粘弾性を計測する手法である粒子追跡法を用いて、食品関連ソフトマターであるゼラチンのゲル化点近傍の挙動を測定した。豚由来ゼラチン5%水溶液に対して、粒子追跡法で得られた粘度はゲル化温度近傍で温度下降とともに急増した。この粘度増加は通常のレオメータによる測定結果より顕著であり、粒子追跡法がゲル化点近傍でより非侵襲的な測定が可能であることを示唆した。また魚由来ゼラチン10%水溶液に対して、25℃におけるゾル-ゲル変化過程を粒子追跡法で計測した。コロイド粒子のアンサンブル平均二乗変位により、ゼラチン溶液のニュートン流体的応答から固体的応答への変化を調べ、ゲル化時間を評価することができた。コロイド粒子の変位分布関数(van Hove自己相関関数)は、ゼラチン溶液がゾルの時にはガウス分布的であったが、ゲル化点近傍では非ガウス分布的になった。非ガウス分布的な変位分布関数は、コロイドガラスの特徴である動的不均一性の指標の一つであり、ゲル形成系がゲル化点近傍においてコロイドガラスと共通の特性を示しうることを表している。ゼラチンのゲル化過程における局所粘弾性への力学的摂動の効果についてはさらに検討が必要である。ゲル形成系であるゼラチンの対照として、典型的なコロイドガラス系であるゲル微粒子濃厚懸濁液を構成するため、以下の予備的検討を行った:(1)懸濁重合法によりN-イソプロピルアクリルアミドゲル微粒子を作製し、微粒子の構造と温度変化に対する粒子直径・有効電荷の変化を評価した。(2)脱溶媒和法と紫外線架橋によりナノサイズのゼラチン微粒子を作製し、粒子の分散性と温度変化に対する粒子直径の変化を評価した。これらのゲル微粒子の濃厚懸濁液のコロイドガラスとしての特性評価についてはさらに検討が必要である。
|