研究課題/領域番号 |
15K20908
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
山口 大介 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (00735657)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ソフトアクチュエータ / フィルモティクス / 極低温 / 液体窒素 / 剥離試験 / 引張試験 / ガス圧 |
研究実績の概要 |
本研究は、液体窒素温度付近(-196℃)において駆動可能な低温環境用ソフトアクチュエータの確立を目標としている。目標達成のために3つの段階に研究を分けており、基盤課題としてアクチュエータの主材料となるポリイミドフィルム同士の溶着強度の評価、本課題としてバルーン型アクチュエータの試作・評価、発展課題としてロボットハンドやアームへの利用を視野に入れた湾曲駆動を実現するソフトアクチュエータの開発、を段階的に進める。これらを通して、構成材料の評価からアクチュエータ製作・評価、低温用ガス圧駆動システムの確立まで一貫して取り組む。 本年度はアクチュエータを試作するための基盤課題として、①溶着強度評価実験であるフィルム剥離試験を液体窒素温度環境において行うために、液体窒素温度に対応した専用のフィルム引張試験機を開発した。本試験機を室温において使用し、②アクチュエータの主材料となるポリイミドフィルム同士の溶着強度評価に成功し、溶着温度と室温における溶着強度の関係を明らかにした。測定した溶着強度より、アクチュエータの製作に必要となる溶着条件やアクチュエータが駆動可能な最大印加圧力が設定可能となった。 加えて、平成28年度に先立ち、③アクチュエータの駆動に必要となる窒素ガスを使用した駆動システム、および④空圧アクチュエータ用低温性能評価装置に関して構築を行った。これらを利用することで、次年度以降、試作した低温用アクチュエータの評価を円滑に進める。また平行して、⑤湾曲型アクチュエータの湾曲角度および先端における発生力に関する設計パラメータの導出を行った。今後、試作したアクチュエータの評価を通じて導出した設計パラメータの検証を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 液体窒素温度環境においてフィルム剥離試験を行うために、専用の引張試験機を製作した。液体窒素デュワー内にフィルム試験片およびフィルム把持部のみを挿入することで冷却を行い、それ以外の測定系統・駆動系統を室温環境に設置することで、安価かつ校正が容易な構成を実現した。本試験機を使用し、溶着条件として溶着温度を変更した試料片について、室温および液体窒素温度付近における剥離試験に成功した。剥離試験より室温環境では、溶着温度に依存して溶着強度が113~737N/mと大きく変化する結果が得られ、アクチュエータを製作する溶着条件の重要性が明らかとなった。本結果をもとに、次年度以降のアクチュエータ製作条件を決定していく。一方で、液体窒素温度付近における剥離試験の回数が不十分であり、継続して試験を行っていく。 (2) 液体窒素温度環境では空気中の水分は固化し、酸素が液化する等の課題があり、一般的に使用される空気圧システムでは駆動が行えない。そこで、乾燥窒素を使用した低温用ガス圧駆動システムを構築した。今後、本システムを液体窒素環境におけるアクチュエータ駆動に利用していく。 (3) 新たに空圧アクチュエータ用低温性能評価を構築した。構築した評価装置は、本研究以前に開発した評価装置と比較して、倍以上の大きさのアクチュエータが搭載可能、複数のアクチュエータの同時駆動、光学系統の高画質化などに成功している。今後、試作したアクチュエータは室温・低温共に本装置を利用して評価を行っていく。 (4) 湾曲型アクチュエータの湾曲角度および先端における発生力に関する設計パラメータの導出を行った。今後、アクチュエータの試作・評価を通じて、導出した式等の妥当性および有効性を検証する。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、液体窒素温度付近における剥離試験を行い、室温環境での測定結果と比較する事で温度低下による溶着強度への影響を評価する. また基礎課題より得られた溶着条件をもとにして、本研究の本課題であるソフトアクチュエータの駆動を到達目標とする。最も単純な構造を持つバルーン型アクチュエータの試作・評価を行う。 本課題として本年度に実施予定であった、アクチュエータの駆動システムおよび評価装置の構築はすでに完了している。そのため残りの本課題である、印加ガスのリーク量減少に関して課題解決を進める。本アクチュエータは室温から液体窒素温度までの大きな温度低下による熱収縮の影響を受け、接続部において熱収縮量の差に起因したギャップが生じる。これにより、低温ではよりリーク量が増加する傾向にあると考えられる。そこで、一体型接続構造を新たに試作する。 上記の接続構造を持つバルーン型アクチュエータを試作し、室温および液体窒素温度付近において印加圧力と剛性等の評価を行い、液体窒素温度用ソフトアクチュエータに関する基盤技術の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
引張試験機の設計変更により、当初計画した価格と比べて安価になったため。これによる研究計画実施に対する影響はない。
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次年度使用額の使用計画 |
アクチュエータを開発していく上での材料費、液体窒素温度環境を作るための冷媒費などに使用する予定である。また、研究成果発表のための学会参加費、論文投稿秘湯を予定している。
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