巨脳症-毛細血管奇形症候群は、巨脳症、結合織の異常、手指の数的異常を来す先天奇形症候群である。本研究は、遺伝子変異によるPI3K/AKT経路の恒常的亢進が、下流経路に与える影響を解析し、潜在的な治療標的や遺伝子変異-表現型相関を明らかにすることを目的とする。本疾患では、手指の数的異常を伴うため、特に手指発生を制御するHedgehog経路(Hh経路)との相互作用に着目して解析を行った。まず、巨脳症患者3人の原因遺伝子の同定を行った。さらにPIK3CAモザイクの症例について、正常皮膚及び病変皮膚から皮膚繊維芽細胞を樹立し、アレイ解析によるmRNA・microRNAの網羅的発現解析を行い、発現プロファイリングを行った。 また、PI3K/AKT経路とHh経路の相互作用についてC3H10T1/2細胞で評価した。恒常的活性型のAKT3発現ベクターの一過性強制発現、リコンビナントヘッジホッグ蛋白またはSMO刺激薬(SAG)によるHh経路の刺激を行い、ルシフェラーゼアッセイ及びreal time RT PCRによりHh経路活性を評価した。何れのHh経路刺激も、PI3K/AKT経路の活性化により強く抑制され、PI3K/AKT3経路の亢進がHh経路を抑制することを初めて確認した。さらにPI3K/AKT活性によるHh経路の抑制効果は、mTOR阻害剤・GSK3β阻害剤のいずれの投与でも不変であり、Hh経路の抑制はPI3K/AKT経路の下流蛋白ではなく、AKTとHh経路構成蛋白の蛋白相互作用の可能性が示唆された。 さらに、脳形態の客観的評価を行うための解析法を確立するために、本疾患と同様に巨脳症を呈するGorlin症候群患者の脳MRI画像の解析を行った。今後は本解析法を用いて巨脳症-毛細血管奇形症候群の遺伝子変異-表現型の関連について解析する予定である。
|