本研究は、アメリカとカナダの比較研究を通じて、表現の自由の保障範囲について、特に孤独な表現に対する所持規制の検討を行うものである。平成27年度および平成28年度はアメリカやカナダに渡航して、必要な資料収集や現地の研究者にインタビューを行った。これらの研究を進めた結果、孤独な表現はプライベートエリアにおける活動に密接に関連することから、表現の自由のみならず、個人の尊厳にも関わることが判明した。 そこで、最終年度である平成29年度は、個人の尊厳についてアメリカと日本の比較研究を行い、それを踏まえて表現の自由との関係を検討した。まず、個人の尊厳については、日米比較を行った上で、その内容を国際憲法学会(ICON)で報告した。表現の自由の保障根拠の1つである自己実現を実践するためには個人の尊厳を認めなければならず、孤独な表現についても個人の尊厳が関わる。このような構造は、個人の尊厳を重視するアメリカの判例や、孤独な表現をプライバシーと絡めて保障したカナダの判例に親和的である。以上の検討の結果、孤独な表現は憲法21条の表現の自由と憲法13条の個人の尊厳の両方によって保障されると考えられる。なお、関連資料をワシントン大学で入手し、こうしたアプローチの是非についてはテュレーン大学のワーハン教授にインタビューした。 また、日本の判例法理との関係についても研究を進めた。レペタ訴訟が筆記行為の自由は21条1項の精神に照らして尊重されると判示している。それを踏まえると、孤独な表現は21条の権利そのものとはいえないかもしれないものの、21条に基づいて尊重されることになる。 このように、平成29年度は、孤独な表現が憲法21条の保障範囲に含まれ、また場面によっては憲法13条と相まって保障されるという構造を明らかにした。
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