研究課題
従来の生息域外保全では、人為的に工程管理を行うため、野外生態が不明で手法の効果が査定できない種を対象にできない。そこで、本研究では、行動可塑性の高い個体が適応した結果、個体群の存続に影響を与える生態学的現象を、絶滅危惧種の個体群回復に応用できると考え、行動可塑性の高い個体を選定し、この個体が新たな生息環境を探し増殖して適応することで、野生復帰する方法を、絶滅危惧種アカウミガメで試みる。もし産卵経験に応じて産卵場所の選択行動に可塑性が生じていた場合、上陸・産卵回数に応じて産卵成功率を高め、適応的な産卵行動をしているはずである。2014-2016年の産卵期間に、屋久島個体群の産卵場所選択行動の可塑性の定量化とその適応性について調べた。個体識別をしたアカウミガメの産卵位置を計測し、産卵位置間の距離の標準偏差を求め、産卵回帰行動の可塑性の指標とした。また、親の体サイズの甲長を計測し、同一個体の産卵成功回数や総産卵回数を調べ、可塑性の高い個体の形質と産卵行動の適応性を検討した。さらに、体サイズ大小の個体を大分周辺から放流し、産卵場までの到達日数と新たな産卵場の探索行動の有無を調べた。その結果、特に産卵位置間の長い行動可塑性の高い個体は、上陸・産卵回数が多く、産卵後期の産卵成功率が高くなることが明らかになった。これは、産卵経験によって産卵が成功する場所を選択し、産卵場所の選択行動に可塑性が生じた可能性を示しており、適応的な産卵行動を行っていることが示唆された。また、産卵期間後期に産卵成功する個体の体サイズは大きいことも明らかになった。これは、産卵場所の選択行動の可塑性が高い個体の体サイズは大きいことを示している。さらに、体サイズの大きな個体は、体サイズの小さい個体と比べて、はじめに捕獲した産卵場所への到達日数が長く、新たな産卵場所を探索する行動も確認された。
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LEONARDO/Journal of the International Society for the Arts, Sciences and Technology
巻: 50(2) ページ: 188-189
10.1162/LEON_a_01416