研究課題/領域番号 |
15K20922
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福森 啓晶 東京大学, 大気海洋研究所, 研究員 (60746569)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 幼生分散 / 集団遺伝学的解析 / 腹足類 / マイクロサテライト / 蛍光マーカー / 沿岸域 / 海流 / 両側回遊 |
研究実績の概要 |
沿岸性海洋生物の多くは浮遊幼生期を持ち,その個体群動態・生物地理を理解するためには,幼生の分散および生態の把握が必須である.その一方で,微少な幼生を追跡することは難しく,一つの個体がその初期生活史中にどのような挙動をとるかは多くの種でほとんどわかっていない.そこで,本研究では,短期から長期のプランクトン幼生期をもつ沿岸性の有殻腹足類を用い,各種の遺伝子マーカーおよび幼生蛍光標識法を開発,各地域・ハビタット間のコネクティビティの検証をおこなう. 本年度は,まず小笠原父島の河川・岩礁域において,遺伝的集団構造の解析に使用する腹足類サンプル(イシマキ等)を採集した.その後,研究室に持ち帰ったアマオブネ類からDNAを抽出し,大気海洋研究所所蔵の次世代シーケンサー(Roche, 454 GS junior+ system)により,マイクロサテライト(SSR)の探索をおこない,複数の種についてSSRマーカーを開発した.開発したマーカーについては,マルチプレックスPCR系の構築を行った.その後,河川性・海産種を対象に,日本各地の約10地点から約20個体ずつを選び出し,ミトコンドリアCOI・核SSRマーカーを用い,遺伝的集団構造解析をおこなった.その結果,両側回遊性の種については,小笠原群島集団を含めた日本産の集団に遺伝的構造は見られず,海産の近縁種と同様,幼生分散能力が高いことが示唆された.また,幼生殻蛍光色素付着実験のために野外から持ち帰ったアマオブネ科腹足類の卵のうを飼育したところ,幼生を孵化・成長させることに成功した.今回飼育したアマオブネ類の幼生は数ヶ月程度の浮遊期間を持つことが判明し,大量の幼生を飼育する基盤が整った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は,遺伝マーカーの開発および蛍光物質を用いた幼生標識法を確立するために大量の幼生を飼育する基盤を整えた.マイクロサテライトマーカーについては,予定していたほぼ全ての種で開発を終え,またマルチプレックスPCR系を構築し,実際に集団遺伝学的解析に用いた.また,ミトコンドリアDNA COI 遺伝子の相同塩基配列を増幅,塩基配列を決定し,得られた配列から系統樹およびハプロタイプネットワークを形成,解析ソフトを用いて各集団間の遺伝的交流の有無を検証した.幼生標識法については,次年度以降,孵化後および卵嚢内の幼生について蛍光染色実験をおこなう予定である.論文発表作業が進んでいないため,十分な成果が得られた研究から順次研究発表を行い,論文を投稿する.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,前年度に得られた結果を基にして,マイクロサテライトマーカーによる遺伝的集団構造解析および幼生標識実験をおこなう.遺伝的集団構造解析には,COI遺伝子配列および前年度に開発したマイクロサテライトマーカーを用いる.その後,両マーカー間の結果を比較し,沿岸性腹足類の幼生分散について検討する.幼生蛍光色素付着実験については,これまで腹足類において,幼生時にカルセインやテトラサイクリン溶液に浸透させ,殻体に蛍光物質を取り込ませる方法が開発されている.対象種の繁殖期は夏期で,一つの個体が数十個の卵のうを基質に産みつけるため,飼育実験用の卵の採集は,6月から8月に行う.上記で採集した卵のうを複数の濃度に分けた蛍光物質溶液に72時間浸透させ,その後,室内において孵化した幼生が蛍光物質を取り込んでいるのかを蛍光顕微鏡により確認する.また,孵化した幼生の成長率や生存率を検討し,最適の濃度を選出する.幼生蛍光標識の開発がうまく進まない場合は,以下の2つの対策を試みる:1)系統の異なる他の貝類幼生で実験,2)同位体標識法の開発.結果がまとまり次第,順次,論文投稿を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の予定では,遺伝子実験の試薬代および幼生飼育実験に研究費の大部分を割り当てていたが,マイクロサテライトによる遺伝的集団構造解析および幼生蛍光色素付着実験が計画よりやや遅れたため,それらの費用分について,次年度使用額が生じた.次年度に,実験に使用する試薬(次世代シーケンサー用試薬および蛍光試薬)等を購入することで,今後は予定通り研究を遂行し,順次結果をまとめ,国際誌に論文を投稿していくつもりである.
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次年度使用額の使用計画 |
本研究では,潮間帯岩礁および河川に生息する沿岸性アマオブネ科腹足類について,分子・生態情報を基に幼生分散を評価する.次年度は,1)遺伝的集団構造解析を行い,次に,2)幼生標識法の開発を試みる.7月までに遺伝子・幼生実験等試薬および幼生飼育器具を次年度使用額分で購入し,データ解析を進める.また,対象種の繁殖期である夏季に野外において卵嚢等の採集を行い,蛍光色素付着実験を進める.その後は論文投稿を積極的に行い,英文校正料・雑誌投稿料等に使用する.本年度までに3報分の論文掲載を予定している.
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