2018年度には,租税法上の欠損金額と会社法・倒産法上の有限責任制度の関係性について,東日本大震災後の福島第一原子力発電所の事故に関する東京電力の処理スキームを題材としてケース・スタディを行った。このケース・スタディを通じて,その処理スキームにおける資金援助の法的性質ゆえに,東京電力が他の借り入れを行う法人よりも法人税法上の欠損金額の繰越期間制限について有利に取り扱われており,その法人税法上の便益は,東京電力を倒産させずに既存株主を排除しなかったために,有限責任制度の下で,過大なリスク・テイキングをとった者と理解することも可能である既存株主が享受している可能性を指摘した。また,この問題について,限定的ではあるものの,ありうる対応策について論じた。 本研究課題の研究期間全体を通じて,企業倒産を巡る租税法上の取扱いについて,歴史的・機能的に分析してきた。とりわけ,本研究課題の意義は,第一に,租税法上の取り扱いを論じるにあたって,その前提となる会社法・倒産法の仕組み・歴史的発展に最大限の注意を払った点にある。第二に,企業再生税制を論じるにあたって,倒産局面のみに焦点をあてるのではなく,平時における租税法上の取扱いとの連続性や断続性に意を払って分析を行った点にある。その結果,企業再生税制について,単に倒産した企業を課税上有利に取り扱うべきか,といった限定的な問題設定をするにとどまらず,租税法と私法の関係についてより広い視野を提示することができたのではないかと考える。
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