研究課題/領域番号 |
15K20930
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 智子 東京大学, 教育学研究科(研究院), 研究員 (90632323)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 公民館 / 社会教育 / 生涯学習 / 教育行政 / シティズンシップ |
研究実績の概要 |
平成27年度は、①公民館設置に関わる歴史・文化的背景、②市長の市政運営方針や自治体の財政状況、行政改革等の影響、③公民館で運用されている諸制度(住民参加の仕組みなど)、④(小中学校や自治会・町内会等)コミュニティにおける他の機関・組織・団体との関係やネットワーク状況、という観点から、各自治体の公民館設置の状況について調査を行なった。各地方自治体の公民館の設置形態と組織体制の概要に関する情報を収集・整理した上で、公民館の制度や実態に特徴のある自治体(岐阜市、仙台市、西宮市等)を訪問調査し、以下の通り、各自治体における公民館の実態を把握することができた。 例えば、岐阜市は人口約40万人の中核市であり、市内に50の地区公民館が設置されている。これは主には昭和20年代、30年代に旧小学校区ごとに設置されたもので、近年、小学校区がいくつか統廃合された(現在は47校区)のちも、維持されている。岐阜市の公民館の特徴は、その多くが小学校と隣接・近接している点であり、岐阜市が進めているコミュニティ・スクールとも強く連携し、公民館が学校・地域・家庭のあいだの結節点になることを目指している。 仙台市は政令指定都市の中では珍しく、市長部局と教育委員会の両方で公民館を所掌している自治体である。合併を契機として、昭和60年代に公民館体制の再編が行われ、地区公民館、区公民館、中央公民館の機能を明確に分担し、それぞれの特色をもった公民館づくりをおこなう方針となった。仙台市には、全体を統括する生涯学習支援センターが教育委員会のなかに設置されているが、各区には区の中央市民センターがあり、事業予算は教育委員会から出ているものの、施設としては区役所組織に組み込まれていて、施設管理の部分は区役所の所管となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
各地方自治体の公民館の設置形態と組織体制の概要に関する情報を収集し、条例公民館を設置していない自治体、公民館を市長部局が所管している自治体についての情報が整理できた。さらに、公民館の制度や実態に特徴のある自治体(岐阜市、仙台市、西宮市等)を訪問し、詳細を聞き取り調査した。各自治体の公民館所管部局の最新の状況については概ね把握することができものの、各自治体の公民館設置条例についての詳細な分析はまだ十分に行えておらず、次年度の課題となっている。 特に、教育委員会と市長部局の双方で分担して公民館に関する事務を所掌している自治体の場合、あるいは指定管理者制度を導入している自治体の場合については、その体制がより複雑になっている傾向があり、より緻密な枠組みを設定した上で調査・分析・考察する必要性が明らかになってきた。市長部局か教育委員会かという2項の軸のみならず、財団等の指定管理者を含めた3項で相互の関係性を見ていくことが重要である。さらに、公民館施設の維持・管理事務の所管と、公民館に勤務する職員の所属については別の視点から分析する必要がある点にも気づかされた。 以上のように、平成27年度は、全国の「都市」における公民館体制の概略を把握することができた一方で、その具体例を分析する際には、その個別具体性を総括するためのより精緻な分析枠組みが必要である点が課題として明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、前年度に明らかになった課題に取り組むため、まずは市長部局と教育委員会の双方で公民館を管理・運営している(していた)自治体を中心に訪問調査を実施する。その対象自治体としては、以下の自治体である。 1)奈良市(かつては社会教育・生涯学習関連事務を所掌する課全体を市長部局に置き、その職員に補助執行させる再編を実施したが、再び教育委員会に戻している) 2)福岡市・大分市(社会教育・生涯学習関連事務を所掌する課は教育委員会にあるが、公民館事務のみを市長部局職員に補助執行させている) 3)久留米市(合併前の久留米市ではそれ以前の公民館を廃止しており、公民館を持つ自治体との合併後に二元体制化している) 4)仙台市(中央公民館、区公民館、地区公民館で公民館としての役割・機能分担を行なう中でその事務所掌や職員の配属が複雑になっている) 5)豊橋市(地区公民館と校区公民館で公民館としての役割・機能分担を行なう中でその事務所掌等が複雑になっている) 6)越谷市(公民館と地区センターが併設されている) 7)前橋市(公民館に市民サービスセンター等が併設されている) 8)福山市(市長部局に生涯学習課が置かれ、そこで生涯学習センターと公民館を所管している) その後、条例公民館を設置していない市(名古屋市、大阪市、北九州市など)や、全市で1館のみ設置している市(札幌市、京都市、和歌山市など)については、過去に設置していた公民館を廃止・統合した経緯等について聞き取りを行なう。以上のように研究を遂行する中で、公民館を市長部局と教育委員会で分担して管理・運営している自治体における体制のパターンを抽出し、それぞれの課題と可能性について分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、参加を予定していた学会がすべて近距離で旅費がほとんど生じなかったのと、対象自治体への調査出張スケジュール調整がうまく行かず、計画通りに出張が行えなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
年度の前半より計画的に調査出張のスケジュール調整を図るようにし、効率的な調査出張の遂行を図る。また、謝金等を活用し、単純労務や周辺業務を外部化をこれまで以上に進め、研究成果の公表を着実に行なっていく。
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