本研究では、政令指定都市や中核市などの「都市」を対象として、コミュニティ・ガバナンス改革に伴う公民館再編の実態についての調査を行った。これにより、現代における公民館の在り方、及び各地における今後のコミュニティ・ガバナンスに対する公民館の意義・可能性と課題を明らかにした。 本研究により、コミュニティ・ガバナンスの歴史的な実態とそれを基盤としたガバナンス改革が、公民館の制度変更を促している側面が強く見えてきた。研究開始当初は、公民館の制度的な変更がコミュニティ・ガバナンスに影響を与えるという仮説を描いていたが、各自治体は、制度的な変更がコミュニティ・ガバナンスに影響を及ぼさないよう、あるいはネガティブな影響を最小化すべく、戦略的に合理的な選択を行っていた。 事例調査で見えてきた公民館の可能性と課題は、「教育行政」という独立領域に期待されたはずの何らかの「本質」に関する集合的ナラティブが歴史的・文化的に共有されてきた過程と、その集合的ナラティブの現代的な状況下での喪失である。社会教育制度の変更や公民館再編に伴う自治体での議論は、教育行政関係者および地域住民と、再編を推進する首長(および首長部局)とのコンフリクトを潜在的・顕在的に生じさせる。継続的な自治体調査を通して、そのコンフリクトが、公民館に関する集合的ナラティブでの社会教育の「本質」概念や普遍性の喪失に起因したものである点が見えてきた。 従前より公民館は各自治体において組織も運営も多様であり、現代では、そのような公民館の法的根拠となってきた社会教育法の効力の限界が露見している。本研究では、公私の境界領域に位置づく「社会教育」を現代的な状況に合わせて改めて概念整理するとともに、「条例公民館」と「集落公民館(自治公民館)」という両面の形態を持つ公民館の今後の在り方、新しいデザインを考える上で重要な課題を明らかにすることができた。
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