研究実績の概要 |
本課題では超伝導転移温度(Tc)を結晶構造から第一原理計算するための基盤手法開発を行っている.まず当初の研究計画に則り,電子状態計算に交換エネルギーを導入した.基礎となる電子状態計算プログラム"xTAPP"において,交換エネルギー項を計算する部分を改変し,mixingパラメタに巨視的誘電率(実験値)を入れる仕様とした.基本的な半導体Si, SiC, C, MgO, LiHについてバンドギャップを計算したところ,実験値との一致精度が系統的に向上することが確認できた.これは今後金属系へと手法を展開していくための重要な一歩である.
一方本課題応募後,超伝導分野を大きく揺るがすニュースが入った.ありふれた物質である硫化水素を超高圧に置くと超伝導化し,かつその転移温度(Tc)がこれまでのレコードを上回る値(203K)を示したのである.私の研究はそもそも高Tcの起源が念頭にあるものである.この点を踏まえ金属系への遮蔽交換エネルギー項計算を進めるという当初の予定を変更,多くの時間を硫化水素の研究に費やした.従来型フォノン媒介超伝導理論に基づき第一原理Tc計算を行うことで実験Tcがよく再現されることを示し,この超伝導が従来型機構によるという強力な証拠を与えた.本内容について論文を発表し(投稿中1本, arXivにアップロード済; Physical Review B に出版済1本),また招待講演を多数行った(国内学会5回,国際学会2回).
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