研究課題/領域番号 |
15K20940
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
明石 遼介 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40734356)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 計算物理学 / 高温超伝導 |
研究実績の概要 |
本課題では超伝導転移温度(Tc)を結晶構造から第一原理計算するための基盤手法開発を行っている.一方,初年度計画遂行中に報告があった硫化水素における高温超伝導現象(Tc=マイナス70℃)について,その重要さに鑑み,この超伝導の起源に関する研究にも力を振り分けた.
手法開発方面としては交換エネルギー項がもたらすスピンゆらぎ効果の実装および応用に携わった.交換エネルギー項は電子の一粒子状態以外にも,電子間の相互作用にも影響をもたらす.単体金属のようなほとんど一様な電子ガスに近い系では,これは強磁性ゆらぎとして超伝導ペアリングを抑制する方向に働き,Tcを下げるという理論的提案が古くからあった.我々はこの効果を定量的に検証すべく,コード実装および物質への適用を進めた.結果,一部の単体金属においてこのTc抑制効果は最大-10K程度に達することが判明した.これにより,従来手法ではTcを過大評価するバナジウム単体などのTc計算精度が向上することも分かった.本結果については論文を準備中である.
一方,昨年度より進めていた硫化水素の高温超伝導についてもその起源について重要な知見を得た.実験においては,硫化水素に高圧をかけていくと,ある圧力領域から超伝導の発現およびTcの連続的増大が見られ,最終的にTcは150K以上に達する.この過程における結晶構造の変化は実験観測の難しさもあり未解明であったが,我々はこれについて理論およびシミュレーションから有力な仮説に到達した.それは硫化水素の超伝導相には低Tc相と高Tc相が存在し,前者に圧力を印加すると両者が層状に重なり合った相(“マグネリ相”)が段階的に生成し,最終的に後者にすべて置き換わるというものである.この仮説に基づいてTc計算を行ったところ,実験のTc増大が正しく再現された.この結果はPhysical Review Letters誌に掲載済である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来計画の一部である,交換効果がもたらす超伝導ペアリングへの影響を定量化する手法開発についても,昨年度より急遽計画に取り入れた硫化水素の高温超伝導機構の研究についてもインパクトのある成果がもたらされ,かつ成果の外部発表も順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
H28年度に実装した手法の応用を更に進め,その有効性を検証,成果発表を進める.同時に初年度に実施した電子状態計算を適宜組み合わせての精度向上,および交換効果がもたらす他の超伝導強化/抑制機構についても,理論開発および手法実装を進め,さらなる発展的研究の基礎を固める.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究推進のために購入した計算機が値下げにより当初計画より安く手に入ったため.
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画より成果発表の機会を増やし,繰越額を消化する.
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備考 |
共同研究成果に関する論文が現在投稿中である.
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