孤立量子多体系における熱化や量子情報の非平衡ダイナミクスに関する研究を行ってきた。主に固有状態熱化仮説(ETH)に着目した。ETHは単一のエネルギー固有状態が熱的だという仮説である。制御の観点ではETHが成り立たない状態が重要であると考えられ、その成立度合いの研究が多体系の制御に繋がると考えて研究を進めてきた。想定している実験系は、冷却原子系や超伝導量子ビットなどの人工量子系である。 まず、並進対称性やその他の良い性質を持つ格子系において、ETHの一種であるweak ETHを準局所的な領域に対して証明した。また、このweak ETHに基づいて、熱浴の初期状態がエネルギー固有状態の熱力学第二法則とゆらぎの定理を短時間領域において証明した。 数値的厳密対角化を用いてETHに関する研究を行った。まず、大偏差的な解析により、ETHの有限サイズ効果を詳しく調べた。また、ETHの応用として固有状態におけるジュール膨張や仕事についての第二法則を調べた。さらに2018年度から最終年度にかけてETHの高次拡張を研究し、非可積分系において2次のETHの成立を数値的に示した。特に非局所スワップ演算子についての結果は、2次のETHがエネルギー固有状態のRenyi-2エンタングルメントエントロピーの有限温度ページ補正を与えていることを意味している。これらのETHに関する知見は、非平衡の量子多体系を調べる上で今後重要であると考えられる。 また、量子情報のダイナミクスの研究も行った。特に量子情報の非局所化については、ハミルトニアンの可積分性によらず三体相互情報量が負になり得ることがわかったが、ダイナミクスのハールランダムユニタリとの差の観点からさらなる研究が必要と考えられる。また、1次元XXZ模型における量子情報の非局所化をiTEBD法を用いて数値計算し、スケール不変性がもたらす普遍的な振る舞いを見つけた。
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