研究課題
本研究では、向社会行動を示す動物種を対象に向社会行動とそれを支える心理特性を被験者内要因で実験的に検討し、個体差に着目することで、向社会行動の心理メカニズムを解明することを目的としている。本年度は向社会行動を促進するとされる共感的反応と他者理解の実験的検討を実施した。第1に、ウマにおいてヒトの表情(あくび)が伝染するか、またその伝染を親密性が促進するかを調べた。ウマの前にヒト実験者(親密者または未知者)が立ち、5分間、20秒の等間隔で同じ表情を呈示した。表情はあくび(テスト条件)か無意味な口開け(統制条件)であった。ウマは、統制条件でよりもテスト条件で有意に多くあくびをした。ただし、その回数に親密さは影響しなかった。この結果から、ウマにおいては、親密な人だけでなく見知らぬ人の表情も同程度に伝染することがわかった。第2に、ウマがヒトの情動を表情と音声を統合してクロスモーダルに認識するかを、期待違反法を用いて調べた。またその認識を親密性が促進するかを検討した。まず、ウマの担当者または未知者の表情刺激(ポジティブまたはネガティブ)を30秒間呈示した。その15秒後に同じ情動価(一致条件)または異なる情動価(不一致条件)の音声刺激を呈示した。音声刺激が呈示されてからスピーカーを向くまでの反応時間とスピーカーを注視する継続時間を指標とした。ウマは、親密性の条件によらず、表情刺激と音声刺激の情動価が一致している条件でよりも一致していない条件で、有意に速くスピーカーの方を見返した。ただし、ウマが情動価の一致していない条件で有意に長くスピーカーの方を見たのは、担当者の条件においてのみであった。これらの結果は、ウマが①ヒトの情動をその表情や音声を統合してクロスモーダルに認識していることと②その認識は親密な人に対してより頑健に見られることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
ウマを対象とした向社会行動を支える心理特性に関する実験的検討は、北海道大学馬術部や北海道大学北方生物圏フィールド科学センター耕地圏ステーション静内研究牧場・東京大学馬術部・東京農工大学馬術部・ポーツマス大学近郊の乗馬施設の協力を得て、予定どおり進めることができた。また、ウマを対象とした研究には、今回報告したもの以外にも同時並行してデータを収集・追加している観察・実験研究が複数あり、来年度も興味深い研究成果を上げる見込みが立っている。また上記で報告した2つの研究については論文執筆を進めているところである。よって本研究はおおむね順調に進展していると言える。
ウマの研究は、今後も、北海道大学馬術部や北海道大学北方生物圏フィールド科学センター耕地圏ステーション静内研究牧場・東京大学馬術部・ポーツマス大学近郊の乗馬施設などの協力を得て、これまで通り推進できる見込みである。また、研究をサポートしてくれる人材を確保できれば、京都大学大学院文学研究科の藤田和生教授の協力を得て、先方の研究室で、フサオマキザルを対象とした研究も実施させていただけることになっており、スムーズな研究の展開が見込まれる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Neuroscience & Biobehavioral Reviews.
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http://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2017.01.003
Psychologia