研究実績の概要 |
これまでに網膜発生やゼブラフィッシュの網膜再生に関係する遺伝子群(Pax6, Sox2, Chx10, Rax, Otx2, Ascl1, Hes1, NICD3)を候補遺伝子として定め、マウス網膜に遺伝子導入を行った後に、細胞増殖の誘導能を評価することで、網膜再生誘導因子の同定を試みた。in vitroの解析では、Ascl1とNICD3の共発現によってミュラーグリア細胞の増殖が強く誘導されることを見出した。さらに、in vivoの実験において、生後9日目の幼若なミュラーグリア細胞でAscl1とNICD3を共発現させると、細胞増殖が誘導されることを認めた。これらの結果から、Ascl1とNICD3遺伝子の共発現により、幼若なミュラーグリア細胞の増殖が促進されることが明らかになってきた。 当該年度の研究では、成体網膜のミュラーグリア細胞でも細胞増殖を促進するかについて検討を行い、細胞増殖によって生み出された細胞の分化についても解析を行った。成体網膜でのAscl1とNICD3の共発現実験では、一部のミュラーグリア細胞の増殖促進が誘導されていた。成体で時期特異的に細胞増殖を誘導したという知見はこれまでに報告はないため、今回得られた知見はヒトの網膜変性疾患を治療する上で非常に重要な発見だと思われる。一方、in vitroでの細胞分化の解析では、Ascl1とNICD3によって増殖した細胞は、神経細胞分化マーカーを発現しておらず、ミュラーグリア細胞マーカーを発現していることが観察された。この結果は、神経前駆細胞へのリプログラミングの程度が不十分であることを示唆しており、神経細胞への分化には他の因子を考慮することが必要であると推測される。
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