研究課題/領域番号 |
15K20955
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横矢 直人 東京大学, 先端科学技術研究センター, 助教 (40710728)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リモートセンシング / スペクトル画像 / データ融合 / 物質・含有率分解 / 土地被覆変化抽出 / 多次元超解像 |
研究実績の概要 |
地球観測において複数のスペクトル画像を統合的に解析することで、1つの画像では得られない地表面情報を抽出するデータ融合技術を研究している。 平成27年度は、物質・含有率分解に基づくスペクトル画像データ融合の一般化に取り組んだ。地表面の物質と含有率を求める因子分解を基盤として、センサ特性や観測条件の差異に関わらず、複数のスペクトル画像に潜む本質的な地表面情報を抽出する理論(マルチセンサ物質・含有率分解)を構築した。土地被覆変化抽出と多次元超解像に応用し、良好な結果を得た。 異なるセンサから得られる時系列スペクトル画像に対し、グラフ理論に基づくマルチセンサ連成物質・含有率分解を適用した。大気条件に対して頑健に地表面物質の含有率分布を推定することに成功した。これにより、サブピクセルレベルの土地被覆変化抽出をデータ駆動で行うことが可能となった。 多次元超解像の実用化が期待されるSentinel-2(マルチスペクトルセンサ)とEnMAP(ハイパースペクトルセンサ)のデータ融合では、波長応答関数の重なりが無い波長帯でも高精度な超解像画像を生成できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
防災や国土管理に地球観測データを活用するためには、異なるセンサで得られる時系列データから、地表面情報を正確・安定・頑健に抽出することが鍵となる。これを実現する理論の構築が本研究課題の最重要事項であり、平成27年度の目標であった。 本年度は、物質・含有率分解に基づくスペクトル画像データ融合をグラフ理論に基づき一般化することに成功し、本目標を達成した。 本データ融合手法の有効性をシミュレーションで定量的に確認した。また、EO-1/HyperionとLandsat-8で構成されるマルチセンサ時系列画像実データに適用し、サブピクセルレベルでの土地被覆変化抽出をデータ駆動で実現できることを示した。 多次元超解像への応用では、ドイツ地球科学研究所の協力を得て、衛星搭載型ハイパースペクトルセンサとして最も有力なEnMAPと、Sentinel-2の高精度なシミュレーションデータでその有効性を検証した。さらに、鉱物分布図作成における超解像画像の有効性を示すとともに、現手法のボトルネックを明らかにした。 以上のように、理論構築の目標を達成し、応用においても大きな進展が得られたため、本研究は予想以上に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に開発した理論に基づいて、土地被覆変化抽出と多次元超解像への応用を進める。
土地被覆変化抽出:植物のスペクトルの季節変化は多様性に富んでいる上、非線形であるため、物質・含有率分解において課題となっている。多様体学習をマルチセンサ連成物質・含有率分解に導入することで、スペクトルの季節変化を時系列画像から学習する理論を構築し、土地被覆変化抽出の精度を改善する。 物質の同定にはスペクトルライブラリを活用することが一般的だが、ライブラリとリモートセンシング画像の不一致は未解決問題である。このデータ間不一致を双線形形式でモデル化し、メタヒューリスティクスにより推定することで、正確な物質の同定を目指す。
多次元超解像:既存手法で得られる超解像画像は、バンド比・インデックス・連続体除去などの特徴抽出によりスペクトル誤差が強調されることが平成27年度の研究で明らかになった。この欠点を克服するため、多様体を利用した連成物質・含有率分解手法を開発する。実データ(例:WorldView-3とEO-1/Hyperion)に適用し、その有効性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は様々な光学衛星で得られる複数のスペクトル画像を統合的に解析することで、1つのデータでは得られない地表面情報を抽出することを目指す。本研究を遂行するためには、ヨーロッパが主導するSentinel-2衛星データ、ドイツが主導するDESISおよびEnMAP衛星データへのアクセスが非常に重要となる。また、Sentinel-2, DESIS, EnMAPのプロジェクトメンバーと連携することで、本研究成果を効果的に社会に還元できる。そこで、平成27年度に、これらの衛星プロジェクトを遂行するドイツ航空宇宙センター(DLR)との研究協力体制を構築した。DLRでの研究交流に伴う旅費が追加で必要となり、次年度助成金を前倒しで使用した。
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次年度使用額の使用計画 |
前倒し使用額は次年度で予定していた研究成果発表に伴う旅費と同額である。今後はフンボルト財団の奨学金を受給予定であり、次年度予定している国際会議旅費も支給されるため、当初の研究計画に何ら支障はない。懸案事項であったデータへの自由なアクセスが可能となり、本研究を予定通り実施することができる。
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