研究実績の概要 |
構造用セラミックスであるアルミナにおいて、小傾角粒界中のドーパント原子の振舞いを明らかとするため、双結晶法にてSr, Ni, Er, Ti, Zrをそれぞれ添加したアルミナ小傾角粒界を作製し、それらの原子構造を走査透過型電子顕微鏡(STEM)にて解析した。粒界には2本一組の部分転位対が周期的に配列しており、いずれのドーパントも転位芯下部に局所的に偏析していた。転位芯下部には引張歪が生じており、いずれのドーパントもAlイオンより大きいことから、この偏析傾向は弾性相互作用に起因していると示唆された。一方、対を成す2本の部分転位への偏析量は一定ではなく、その量比はドーパントのイオン価との相関が見られた。過去の報告より、2本の部分転位対はそれぞれ正と負に帯電していることが示唆されていることを踏まえ、転位芯とドーパント間に電気的相互作用が生じていると仮定すると観察された偏析傾向をよく説明できることがわかった。つまり、イオン性結晶における転位へのドーパント偏析は弾性的および電気的相互作用の両方に影響されると考えられる。 また、原子分解能STEM内でのその場機械試験の実施を目指し、微小電気機械システム(MEMS)を応用した小型荷重負荷デバイス上での試料作製法を検討した。本デバイスはnmオーダーで試料を精密に駆動できる一方、試料サイズはサブμmオーダーとしなければならず通常の試料加工法は適用できない。そこで、集束イオンビーム装置(FIB)を用いることとした。小型荷重負荷デバイスに結晶片を固定し荷重負荷可能な形状へと加工、観察部分をさらに薄膜化したものをテスト試料としSTEM観察を行ったところ、当該システムが十分な安定性を有していることが確認された。粒界を含む試料を用いたSTEMその場機械試験の実施には未だ課題が残されている状況であるが、本研究にて得られた知見を活用し今後展開していきたい。
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