研究課題
本研究では、体温付近で急激に抵抗変化を温度センサを開発し、フレキシブルエレクトロニクスへの応用を行うことを目的とする。今年度は、体温付近に融点を有する新奇ポリマー材料の開発と、ポリマー材料と導電性粒子を混合するプロセスの確立と動作評価を目標とした。特に、ポリマー材料の結晶性や融点が温度センサの特性変化に大きな影響を与えることがわかっている。2種類のアクリルモノマーを光重合することで、体温付近に融点を持ち、尚且つモノマーの混合比で融点を制御することを実現した。また、導電フィラーとして、カーボンブラックを用いることにより、最大6桁の抵抗変化を実現した。より具体的には、2種類のモノマー材料の混合比を変えることで、25℃から50℃の間で融点を精密に制御することに成功した。この制御性は、モノマー材料のモル比と線形性を有しており、従来の種類のポリマー材料などを混ぜるデバイスと比較しても、高い制御性の実現に成功した。これらの結果は2015年11月の米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載され、「印刷可能でフレキシブルな」な温度センサとして話題を呼んだ。また、この温度センサを12.5マイクロメートルのポリイミド基板上に印刷を行い、非常にフレキシブルなデバイスを作製することで、0.1℃と非常に微小なラットの肺の呼吸時の温度変化の測定も実現した。さらに、このようなポリマー材料を用いた温度センサーの再現性の向上にも成功しており、2000回程度の温度変化に対しても特性の劣化はほとんど起こらなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
体温付近で抵抗変化が大きく変わるフレキシブル温度センサの開発に成功したことに加え、動物の生体温度の変化を計測することに成功したため。
さらに微細な導電粒子を用いることで、デバイスのさらなる薄膜化を行う。具体的には、10マイクロメートル以下の厚さを目指す。さらに、導電率の高い金属フィラーなどを用いることにより、温度センサーの初期抵抗の低減を目指す。これらを実現することにより、デバイスの微細化、フレキシブル性を向上させ、有機集積回路の保護回路への応用を実現する。
昨年度は、温度センサーの開発の際に既存の設備と非常に安い材料を用いた。その結果、予想以上に特性の良いデバイスの開発に成功したため、新しく材料や装置の調達を行う必要性がなくなり、デバイスの基礎特性の評価を行うことに集中した。その結果、次年度への繰越額が生じた。
次年度への繰越額と翌年度分の助成金を合わせて、材料混合のための装置の購入を予定している。この装置を用いることで、さらにデバイスの均一性や特性を改善することができると考えられる。また、有機集積回路との集積化を考えており、デバイス作製のためのマスク作製費用などに充てる予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 112 ページ: 14533-14538
10.1073/pnas.1515650112