研究課題/領域番号 |
15K20962
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内田 智士 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20710726)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | mRNAデリバリー / 虚血性疾患 / 抗アポトーシス因子 |
研究実績の概要 |
本研究は、アポトーシスの亢進が原因となる疾患に対して、抗アポトーシス因子をmRNAの形で投与して、治療することを目的とした。ここでは、下肢虚血マウスを対象にその有効性を確認した。まず、in vitroにおいて、低栄養培地を用いてアポトーシスを誘導した細胞に対して、抗アポトーシス因子発現mRNAの効果を検証した。複数の因子のスクリーニングを行い、高い抗アポトーシス効果が得られる因子を見出した。 つづいて、下肢筋肉へのmRNA導入に関して、高いmRNA導入効率が得られるmRNAキャリア組成の最適化を、レポーター(ルシフェラーゼ)発現mRNAを用いて行った。我々は表面がポリエチレングリコール(PEG)で覆われた高分子ナノミセルをmRNAキャリアとして用いているが、そのPEGの鎖長がキャリアの安定性に大きく寄与し、結果的にmRNA導入効率に影響することを見出した。最適化した組成のナノミセルを用いることで、非常に効率的なmRNAからのタンパク質発現が1週間以上にわたってが得られた。 そこで、最適な組成のナノミセルを用いて、実際に、下肢虚血マウスに対して治療を行った。大腿動静脈を結紮した虚血モデルマウスを用い、抗アポトーシス因子発現mRNA内包ミセルをハイドロダイナミクス法にて投与した後、超音波ドップラー法を用いて、患側と健側の血流量の差を指標に治療評価を評価した。すると、治療群で、バッファー投与コントロール群と比べて、血流量が改善することがわかった。 以上のように、ナノミセルを用いたmRNAデリバリーにより抗アポトーシス因子を導入することで、下肢虚血モデルマウスに対して治療効果が得られることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度に行う予定であったin vitro試験による抗アポトーシス因子の機能評価と下肢筋肉へのmRNAデリバリーに適したナノミセル組成の最適化について行った。結果的に、優れた抗アポトーシス効果を持つ因子を同定し、また、高いmRNA導入効率を持つナノミセルの組成を見出すことにも成功した。したがって、当初の計画について達成されている。 さらに、上記の実験が順調に進んだことを受け、平成28年度の計画を前倒しして、治療実験も行ったところ、優れた治療効果を得ることにも成功した。このように、平成28年度分の計画についてもある程度優れた結果を得ていることから、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、一定の治療効果を得ることに成功し、proof of conceptは得られたと考えられる。今年度は、メカニズムの考察と、mRNA導入手法のさらなる検討を計画している。前者に関して、複数の抗アポトーシス因子の比較についてより重点的に行う。これまで、個々の因子の生物学的機能に関する研究は数多くあったが、一方で、治療応用の観点から、同様の機能を持つ因子を相互比較し、その治療への有効性を検証した論文は非常に少なかった。このような観点はとりわけ臨床応用を目指した治療システムの構築に非常に重要である。 後者のmRNA導入手法の検討に関して、現在、下肢筋肉へのハイドロダイナミクス法で治療を行っている。この方法は、大動物での研究もあり優れたmRNA導入手段であるが、やや侵襲性を伴う。そこで、より侵襲性の低いデリバリーシステムの構築も合わせて今後検証を行う。
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