研究課題
メッセンジャー(m)RNA導入は、抗アポトーシス因子を安全な手法で持続的に標的組織に発現させる優れた方法論である。一方で、mRNAは生体内で速やかに酵素分解を受けることや、強い免疫原性を有することが問題となるため、表面がポリエチレングリコール(PEG)で覆われた高分子ナノミセルにmRNAを内包させた。本研究では、下肢虚血性疾患モデルマウスに対して、抗アポトーシス因子発現mRNAを搭載したナノミセルを、静水圧を利用した核酸導入法であるハイドロダイナミクス法にて投与することで治療を試みた。まず、ルシフェラーゼmRNAを用いたレポーター試験により、長鎖PEGを持つナノミセルで優れたmRNA導入効率を示すことが明らかとなった。続いて、このミセルにmyr-akt mRNAを搭載して、虚血モデルの治療を行ったところ、超音波ドップラー法における血流量評価において、mRNA導入群で、バッファー導入コントロール群と比べて、有意な血流量の回復効果が観られた。一方で、ハイドロダイナミクス法はやや侵襲的な方法で、将来の臨床応用を目指した場合、経静脈的な全身投与が望まれる。このような全身投与では血液中でのmRNA分解を防ぐために高い安定性を持つナノミセルが必要となる。そこで、ナノミセルを構成するブロック共重合体のポリカチオン部分の組成の最適化や、疎水性官能基の搭載によるナノミセルの安定化を試みたところ、静脈内投与後、優れた血中滞留性を示すナノミセルを開発することに成功した。以上のように、本研究では、下肢虚血モデルマウスに対して、抗アポトーシス因子mRNAを導入することで有意な治療効果が得られることを示した。また、mRNAを低侵襲な手法で導入するための新規ナノミセル開発にも成功した。今後、新たに開発したナノミセルを用いて、静脈内投与による治療を目指す。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、抗アポトーシス因子mRNAを搭載したナノミセルを用いて、虚血性疾患の治療を目指した。実際に、myr-akt mRNA搭載ナノミセルを投与することで、疾患モデルマウスにおいて、血流量を有意に回復させることができたため、当初の計画における目標は達成したと言える。一方で、ここではハイドロダイナミクス法という静水圧を利用した手法を用いmRNAの局所投与を用いた治療を行ったが、この手法はやや侵襲的であり、臨床応用においては、静脈内からの全身投与が好ましい。これに対して、本研究では、ナノミセルの安定性を更に向上させることで、これまで技術的に困難とされていたmRNAの全身投与にも成功した。このように、本研究では抗アポトーシス因子mRNAを用いることで下肢虚血性疾患の治療が可能であることを示しただけでなく、当初の計画を超えて、臨床応用可能な手法でmRNAを導入するための基盤技術を開発することにも成功したことから、当初の計画以上に進展していると言える。
新たに開発した全身投与型のmRNA搭載ナノミセルを、下肢虚血をはじめとした虚血性疾患へと応用する予定である。虚血部位では組織傷害に伴い、血管透過性が亢進しているため、ナノ粒子が選択的に集積することが知られており、mRNA搭載ナノミセルも患部へ集積することが期待される。さらに、ナノミセル表面に患部へ特異的に結合するリガンドを搭載することで、集積性をさらに向上できる可能性もある。このような計画が実現することで、臨床応用可能な手法でmRNAを導入し虚血性疾患を治療することが可能となる。
当該研究では、抗アポトーシス因子mRNAの導入による虚血性疾患の治療を目指している。本研究の目標であった治療効果に関して、既に一定の成果が得られた。一方で成果発表に向けては、再現性の確認の実験が必要となるほか、今後、成果発表を目的とした学会参加や、論文投稿を行う予定であるため。
再現実験のための物品費、学会発表のための旅費、論文投稿のための英文校正や投稿料に充てる予定である。
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