研究課題
癌細胞はマクロファージの誘導を介し自らに有利な微小環境を形成することが明らかとなっている。このような癌細胞の微小環境構築機構を解明するため、癌細胞のストレス応答とその適応機構に着目し、以下のような成果を上げた。(1)単球・マクロファージ誘導を惹起する環境ストレス因子を同定するため、低酸素・低血清・低グルコース・低pH・酸化ストレス・除鉄などのストレス条件下で癌細胞を培養したところ、除鉄時においてCCL2およびCSF2遺伝子の発現が著しく上昇することが明らかとなった。(2)癌細胞移植マウスモデルに鉄キレート剤を投与したところ有意な腫瘍抑制効果が得られなかったことから、癌細胞が鉄枯渇ストレスに対する適応機構を有することが考えられた。(3)癌細胞移植マウスモデルの腫瘍組織中に鉄貯蔵マクロファージの存在が確認された。(4)次に癌細胞の除鉄応答機構を解明するため、鉄応答蛋白質IRPによるCCL2およびCSF2 mRNAの制御に着目したが、mRNAのUTR上にIRP結合配列の存在を確認することはできなかった。(5)また、鉄を補因子とするDNA脱メチル化酵素Tetの関与に着目したが、CCL2およびCSF2遺伝子のプロモーター領域にCpG islandの存在を確認することはできなかった。(6)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の投与によりCCL2およびCSF2遺伝子の発現が著しく上昇したことから、鉄を補因子とするヒストン脱メチル化酵素Jmjcドメイン含有タンパク質の関与が示唆された。以上の結果は、癌細胞がマクロファージ誘導を介する鉄補給システムを有していることを示唆しており、その分子機構の解明が癌微小環境構築を標的とした新たな治療標的の提案に繋がるものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
腫瘍内マクロファージの誘導を惹起するストレス因子として鉄を特定できたこと、除鉄に対する癌細胞の適応機構の存在を示唆できたこと、除鉄反応性に発現変化の起こる標的遺伝子を特定できたこと、その発現制御にヒストン脱メチル化酵素が関与している可能性を示唆できたことは初年度の達成目標を満たす成果であるが、詳細なストレス応答機構の解明には至っておらず、次年度の課題となる。
当初予定していた低酸素ストレスに対してマクロファージ関連遺伝子の変化が観察されなかったことから、微小環境構築に関わるストレス応答の解析を鉄枯渇に焦点を当てて行う。また除鉄標的遺伝子の発現制御に、当初予定していたDNA脱メチル化酵素Tetファミリーが関与する可能性が低いことから、詳細な分子機構の解析をヒストン脱メチル化酵素Jmjcドメインファミリーに着目して遂行する。今後、メチル化ヒストンのマッピングをもとに鉄センサーとしてのJmjcドメインタンパク質を特定し、当初の予定通り細胞内ストレス応答経路を明らかにする。さらに、その活性評価系あるいは発現評価系を構築して、応答経路を制御する低分子化合物のスクリーニング・ヒット化合物の同定を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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