前年度までの研究で癌細胞は鉄欠乏ストレス応答性にマクロファージ(Mφ)を誘導する可能性が示唆された。そこで今年度は癌細胞の鉄欠乏応答とMφによる鉄供給の実態を把握するため、以下の解析を行った。(1)ラット神経膠腫(グリオーマ)細胞株C6において鉄キレート時に見られる単球動員因子CCL2の発現上昇をintracellular FACS法により解析したところ、1細胞あたりの発現量に大きな変化はなかったもののCCL2陽性細胞の割合が有意に増加しており、C6細胞中にはMφ誘導を担う亜集団が存在することが明らかとなった。(2)この鉄欠乏ストレスに応答する細胞画分を単離するため、グリオーマ患者の遺伝子発現データベースGlioVisを用いて2遺伝子間発現相関を解析したところ、CCL2あるいは腫瘍随伴MφマーカーCD204遺伝子の発現と高い相関を示す既報のグリオーマ関連細胞表面分子としてCD44およびCXCR4が同定された。(3)一方、癌細胞の培養上清を用いて骨髄単球より誘導したMφにおいて鉄放出関連遺伝子FPNの発現を解析したところ、その発現量は単球よりも高く赤血球の添加によってさらに上昇することが明らかとなった。さらにグリオーマ患者におけるFPNの発現はCD204の発現、および予後との間に有意な相関を示すことも明らかとなった。以上の結果は、鉄欠乏環境下において宿主Mφの鉄リサイクリング能を利用して適応を図る癌細胞の利己的生存戦略の存在を示唆しており、癌微小環境が形成される仕組みの一端を解明できたものと考える。
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