研究課題/領域番号 |
15K20976
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
細矢 匡 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (60737104)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 関節リウマチ / 疾患感受性遺伝子 / SNP機能解析 |
研究実績の概要 |
本研究においては、関節リウマチ(RA)における自然経過や治療反応性が疾患感受性遺伝子によって規定されるという仮説に基づき、Genome-Wide Association Studie(GWAS)で同定されたRA関連single nucleotide polymorphism(SNP)の生理的な意義について解析する。 はじめに注目したのは細胞増殖の制御因子であるCyclin dependent kinase(CDK)6の近傍に同定されたSNPである。これまでにRAの病態とCDK6のSNPの関連についてはrs4272 とrs42041の二つのSNPで報告がある。両SNPは10kbpと近接しており、連鎖不平衡の関係にあると思われる。 興味深いことに、両SNPともRAとの関連は欧米人においてのみ有意であり、アジア人では優位でなかった。Hapreg (Nucleic Acids Res. 2012 Jan;40(Database issue):D930-4.)を参考に、両SNPのアリル頻度を人種間で比較してみると、両SNPのリスクアリル頻度アジア人で低く、ハプロタイプの解析では、欧米人ではrs4272, rs42041の両SNPが挙動を共にするのに対して、アジア人では両SNPは独立して挙動することが明らかとなった。 rs4272はCDK6の3'UTR領域に存在するため、欧米人においては両SNPの近傍に真のcausative SNPが存在し、CDK6の発現量の変化に寄与してRAの臨床表現型の違いをもたらしていると推測された。また同時に、アジア人のGWASで両SNPがRAの疾患関連SNPとして検出されない理由は、アリル頻度が低いためか、欧米人における真のcausative SNPがアジア人ではrs4272またはrs42041と連鎖不平衡にないためと思われた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
様々な疾患におけるGWASの普及によって多くの疾患関連SNPが報告されているが、SNPの機能解析はほとんどなされていない。CDK6の真のcausative SNPを同定するために、Hapregを用いて欧米人とアジア人のアリル頻度を解析した。引き続いて、欧米人とアジア人のCDK6遺伝子のハプロタイプ構造を検索することで、rs4272およびrs42041のそれぞれと強い連鎖不平衡にあるSNPを見出した。 CDK6は細胞増殖に関わる分子であるため、リスクアレル保有者では細胞増殖が亢進していると予想される。またcausative SNPは3'UTRに存在すると推測されるため、CDK6分子のmRNAの安定性に影響している可能性が高い。リスクアレルをヘテロで保有する患者由来のサンプルを用いて、CDK6のAllele-specific qPCRの実施や細胞増殖を指標にしたQuantitative trait locus解析を実施する予定であったが、実験の計画が遅れている。 実験サンプルとしては、当研究室が保有するRA患者由来滑膜線維芽細胞(RASFs)のバンクをCDK6 SNPのgenotypingを行って用いるとともに、市販のgenotyping済みの日本人由来B細胞株も用いる準備を進めている。 なお、当初の計画では、当施設が保有する患者の臨床像を集積したデータベースを利用して、個々のRA患者の臨床情報とゲノム情報を対比させることで、RAの臨床像の様々な側面における疾患関連遺伝子の関与を解析する予定であった。しかし、概要に報告する通り、本研究計画において最も注目していたCDK6のリスクSNPのアリル頻度がアジア人において低いことが明らかとなったため、本研究におけるにおける実施を断念した。
|
今後の研究の推進方策 |
rs4272, rs42071両SNPの機能解析を行う上で、日本人ではリスクアリル頻度が低いことが問題になる可能性がある。両SNPのリスクアレルホモはそれぞれ1.2%, 0.09%であるため、QTL解析を行う上でリスクアレル保有/非保有で解析することになる。 もし現在準備しているサンプルで十分な結果が得られなければ、欧米人由来検体を入手する方針である。また、部位特異的な遺伝子改変技術であるCrisper/Cas9の技術を利用して、risk alleleと同様の1塩基置換体を作成することでも解決は可能である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ヒトサンプルを用いた解析の準備が十分に整わなかったため
|
次年度使用額の使用計画 |
RASFsバンクを用いたCDK6 SNPのgenotyping、genotyping済みの日本人由来B細胞株の購入 CDK6のAllele-specific qPCR、細胞増殖を指標にしたQuantitative trait locus解析など
|