本研究は、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)の児童における親密で適応的な仲間関係の構築に至る時系列変容の過程解明を目的とする。当該年度は研究参加児のリクルートを行い、アセスメントおよび行動観察とその解析作業を順次開始した。解析終了ののち成果を報告する予定である。仲間相互作用(PI:Positive Interaction、NI:Negative Interaction、LLI:Low-Level Interaction)3指標の生起頻度を算出する行動解析手続きで、自由遊び場面における2人組相互作用の時系列変化をモニターしながら必要最低限の環境設定と介入を行った。 本研究の重要な結果として、セッション全体を通してLLIが高頻度かつ安定的に出現することと、セッション開始直後よりも数回後において相互作用全般の出現頻度が一時減少する傾向が示された。これは個々に遊びに没頭し平行的遊びの時間が長いことを意味するが、支援者にとっては「相互作用がうまくできない状態」と捉えやすく、焦燥感や切迫感から拙速な介入に繋がりやすい現象とも言える。しかし平行遊び期間にもLLIは安定的に出現しており、その後セッション中盤には再びLLIが増加、連動するようにPIやNIの増減変化を引き出していると示唆された。 またASD児2人組による仲間関係発達支援プログラム参加児の追跡調査を実施し、効果の維持・般化を検討した。保護者による質問紙回答を支援前後;T1-T2と7ヶ月後;T3の3時点で比較したところ、ASD行動特性の程度はほぼ変化しないが、精神的健康の評価では内向的症状(抑うつ・不安)が著しく減少した。適切な環境下で特定の仲間関係性形成を経験することはASD児の精神的健康改善に影響すると考えられた。 日本発達心理学会大会および欧州自閉症学会国際会議で成果を発表した。
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