研究課題/領域番号 |
15K20983
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
京都 絵美 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 講師 (40633441)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 技法材料 / 和様化 / 絹本 / 仏画 / 模写 |
研究実績の概要 |
本研究は絵画の「和様化」という言説について、絹本仏画を中心に技法・材料と装飾、空間表現の関連性からその具体像を明らかにすることを目的としている。その方法として、基底材(画絹)と色料の調査研究、作品調査、画像資料の収集・アーカイブ、サンプル制作を進めている。今年度は美術史研究者から提供を受けた平安時代の著色絵画のポジフィルムについてデジタルアーカイブを行なったほか、仁和寺所蔵の国宝孔雀明王像とその模写である仁和寺自性院源證筆孔雀明王像(安永8年[1779])の熟覧調査および撮影を行なった。源證筆孔雀明王像は三面六臂の宋本を不空訳「仏説大孔雀明王画像壇場儀軌」に依って図像を改変しているが、画面の大部分は宋代原本を透き写したとみられ、精緻な文様も原本に倣っている。これは翻せば色や形は同じでも絵具の使い方を比較すれば「写し」で再現しきれない部分に宋代彩色技法の特質が表れているということであり、日中における絹本著色仏画の展開の一端を示すものである。再現制作では中国の画論を参考に画絹の素地加工および描画実験を試み、長野県上伊那郡飯島町の勝山織物絹織研究所にて製糸・製織技術と描画との影響関係について意見交換を行なった。また、台湾故宮博物院「国宝再現」特展に参観し日本と中国における絹本著色技法の展開に関する多くの知見を得た。成果の一部については東京文化財研究所文化財情報資料部研究会にて「絹本著色技法の史的展開について 仁和寺所蔵孔雀明王像をめぐる一考察」として研究発表を行なった。活字化するにあたっては、さらに内容を補強する追加の調査および実験の必要性が感じられたため、本来は本研究課題の最終年度にあたったが、期間延長を申請した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き作品調査とサンプル制作、画像資料の収集、アーカイブを進めているが、画絹と絵具の使い方などを検証するためには印刷物の図版や低解像度の画像からでは情報が得られないことが多く、特にサンプル制作のために必要な作品についての情報が不足している。 昨年までに行なってきたワークショップ、研究会によって材料・技法に関心のある研究者や学生らとの交流や、意見交換の機会も増えている。美術史や保存科学等、実際に画材を扱わない分野の専門家と各々の知識を共有する必要性をさらに感じているところであり、より実証的な成果を公表するため研究期間を延長して調査とサンプル制作を追加することとした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに蓄積してきた内容を総括する研究発表および論文公開の準備を進めている。当初の研究計画では、特に院政期仏画にみられる計算された同系色と補色の色彩対比によって空間を演出する独特の空間認識に力点を置いていたが、日本の仏画に多用される截金や裏箔といった平面性を強調する要素、水墨的表現とそぐわない要素については感覚的な問題のみならず日中の用絹法や絵具の使い方にも深く結びついていること明らかになってきた。このことは東アジアの絹本絵画技法に広く波及するより重要な問題と思われ、今後も表層的な画面の構成だけでなく、作品の再現制作などを通して技法史的観点からの研究を深め、研究会や論文等で公表していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由 研究の進展により課題の部分的な見直しをはかり、追加の調査、検証が必要になったため期間延長に伴って次年度使用額が生じたものである。 使用計画 具体的には用絹法に関する検証のため近畿地方で中国絵画の調査を予定している。調査結果を反映させた再現制作を速やかに行い、研究の進展を図るとともに公表の準備を進めたい。
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