研究課題/領域番号 |
15K20986
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
水谷 友彦 東京工業大学, 工学院, 特任准教授 (00553984)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非負行列分解 / 逐次射影法 / 特異値分解 / 低ランク近似行列 / ハイパースペクトル画像 |
研究実績の概要 |
本課題では分離可能性を仮定した下での非負行列分解(NMF)に対して,(1)ノイズ頑強性を有し,かつ問題規模にスケーラブルなアルゴリズムの開発,(2)他手法へのアルゴリズムの拡張,(3)考案したアルゴリズムの実データへの応用に関して研究を実施する.今年度は主に課題(1)と(3)に関して研究を行った.前年度では逐次射影法に前処理を施すとノイズ頑強性を改善できるということを理論的に明らかにした.前処理付き逐次射影法はノイズ頑強性の面では優れているが,一方で計算コストの面では課題がある.前処理はデータ行列の特異値分解を利用してランクk近似行列を構築するというステップを含む.こうして得られるデータ行列に対する近似はランクがk以下の行列の中で最良の近似となっており,逐次射影法のノイズ頑強性を向上させる上で重要な役割を担っている.しかしながら,データの規模が大きくなると前処理のための計算コストは無視できなくなるほど大きくなる.そこで,本年度はデータ行列のNMFを求めるという文脈の中で高速にランクk近似行列を計算する手法の開発を行った.考案手法ではまず逐次射影法を利用してデータ行列の低ランク構造を大雑把に捉えて,その後,部分空間反復法を適用することでその近似精度を改善する.この手法はRokhlinらが提案した乱択部分空間反復法と呼ばれる手法に動機付けられている.考案手法によって得られるランクk近似行列の精度とその計算コストを理論的に評価した.また考案手法を計算機上に実装し人工データ及び実データを用いて近似精度と計算時間を調べた.実験から考案手法を利用すると短い計算時間で高い精度のランクk近似行列が得られることを確認した.また,考案手法を前処理として利用した逐次射影法をハイパースペクトル画像からの端成分抽出問題に適用し,その有効性を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
逐次射影法と部分空間反復法を組み合わせることによって短い計算時間で高い精度のランクk近似行列を計算できるという理論的,実験的示唆を得た.実際にピクセル数が数万から数十万程度,バンド数が200程度のハイパースペクトル画像を行列とみなし,考案手法を適用したところ数秒程度で高い精度のランクk近似行列を計算できることを確認した.考案手法を利用した前処理付き逐次射影法は特異値分解を利用するものと同程度のノイズ頑強性を有すが,計算コストは小さい.考案手法を利用した逐次射影法をハイパースペクトル画像からの端成分抽出問題に適用した.実験では先行研究によって端成分が明らかにされている画像を使用した.考案手法を利用した逐次射影法によって得られた端成分と先行研究で明らかにされた端成分を比較したところほぼ一致していた.この手法は端成分抽出問題に対して有効な手段となり得るかもしれない.一連の研究結果は論文にまとめて投稿した.考案した手法は本課題(1)と(3)の研究目的に対するある程度の回答となっていると判断したため「おおむね順調に進展している」を選択した.
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今後の研究の推進方策 |
主に次のような研究に取り組むことを検討している. - ハイパースペクトル画像からの端成分抽出問題に対してスペクトル・クラスタリングがどの程度有効なのかを実験的に評価する. - データ行列に白色化を施して逐次射影法を実行するとノイズ頑強性が向上することが知られている.この手法の頑強性に関して理論的な考察を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は数値実験用の計算機を購入する予定であったが,研究の進展具合を考慮して計算機の代わりに画像処理ソフトを購入したため4万円程度の残額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は数値実験用の計算機の購入及び国際会議への出張に予算を使用する予定である.
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