研究課題/領域番号 |
15K20988
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
松田 晃史 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 講師 (80621698)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ワイドギャップ半導体 / 酸化ガリウム / エピタキシャル薄膜 / 低温成長 / レーザアニール / 固相結晶化 / バッファ層 |
研究実績の概要 |
本研究はエレクトロニクス・エネルギー分野に貢献するワイドバンドギャップ半導体セラミックスの低温合成プロセスを追究するものである。本研究では、酸化ガリウム(Ga2O3)をはじめとするワイドバンドギャップ材料における低温エピタキシープロセスの創成、配向結晶化の因子やメカニズムの解明を目的として、非平衡状態下の薄膜合成および結晶核形成・成長過程について検討した。以下に示す3つのアプローチを用いた;(1) 基板表面形状による核形成サイトと成長方位の制御、(2) ワイドギャップ材料に適した波長を用いたレーザアニール固相結晶化、(3) バッファ層導入による基板ー薄膜間の格子ミスマッチ低減。 KrFパルスエキシマレーザ(波長248nm、5eV相当)を用いたパルスレーザ堆積(PLD)法によりGa2O3薄膜を原子ステップを有するサファイア(0001)基板上に合成し、室温堆積ではGa2O3薄膜は非晶質となり、500℃以上の基板温度においてのみβ型Ga2O3薄膜のエピタキシャル成長が得られた。非晶質Ga2O3薄膜(Eg~4.3eV)に対し同様のKrFエキシマレーザを大気中・試料非加熱の状態で照射してレーザアニール固相結晶化を誘起した。 Ga2O3薄膜試料について、X線回折(XRD)および反射型高速電子線回折(RHEED)を用いた薄膜構造解析により結晶化の評価を行ったところ、エキシマレーザアニーリングにより、単斜晶系のβ型Ga2O3の一軸配向薄膜が得られることを見出した(Eg~4.9eV)。一方、立方晶系材料の(111)エピタキシャル極薄膜をバッファ層としてGa2O3薄膜とサファイア基板の間に導入した場合に、β型Ga2O3薄膜のエピタキシー温度が200℃以上低減することを見出した。その結果、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた薄膜表面形状の比較観察により、結晶化温度の低減による平坦性改善を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究では、KrFエキシマレーザにNd:YAGレーザを加えた多波長のレーザアニールの検討は結晶の不具合により困難であったが、現在までに以下の実験的結果および知見が得られている。(1) 原子ステップを有するサファイア(0001)基板を用いた室温PLDによる薄膜合成、およびKrFエキシマレーザを用いた大気中の単色紫外レーザアニーリングにより、試料基板非加熱の状態でβ型Ga2O3の高配向結晶性薄膜が得られた。(2) 並行してバッファ層導入によるエピタキシャル成長温度の低減に関する検討を実施し、厚さ2nmの酸化ニッケル NiO(111)極薄エピタキシャル層を用いた場合に、200℃以上のエピタキシー温度低減が得られた。(3) 本研究において低温で作製されたβ型Ga2O3の一軸配向およびエピタキシャル薄膜は粗さ1nm以下の平坦表面を呈し、高温堆積と同等およそ4.9eVの光学的バンドギャップを有する。 以上のことから、ワイドギャップ酸化物半導体の薄膜合成における配向結晶成長の低温および室温プロセスに関する実験的成果、および平坦性・半導体特性の改善につながる知見が得られており、研究全体はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの実験研究により得られたレーザアニール固相結晶化による結果および知見を発展させ、低温におけるワイドバンドギャップ酸化物半導体の高配向薄膜合成プロセスを創成する。成膜から結晶化までのパラメータと薄膜構造と物性の系統的相関を調べ、とくに室温近傍のエピタキシーを追究する。以下のアプローチを以って本研究を推進する。 (1) レーザアニーリング装置およびレーザ光学系の製作と改良を実施し、基板ー薄膜界面近傍のレーザ吸収と選択的核形成を誘起し、結晶配向性を改善。 (2) 基板に用いる材料および結晶面の検討による基板ー薄膜間の結晶格子マッチング改善。 (3) 成膜酸素圧制御、異種元素ドーピングを通したβ型Ga2O3結晶の格子定数および薄膜内部歪み操作と、基板ー薄膜間格子ミスマッチの抑制。 (4) レーザアニーリングのパルス数をパラメータとした透過型電子顕微鏡を用いた断面観察や溶液エッチングを用いた表面形状観察による、初期結晶化過程の評価。 (5) 以上を踏まえた低温エピタキシーにおけるメカニズムの検討と、プロセス改善へのフィードバック。 また上記の研究推進に並行して、現在までの研究で成果の得られたエキシマレーザアニール固相結晶化、およびバッファ層導入のアプローチの融合による方策も検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ワイドギャップ酸化物半導体の薄膜堆積とレーザアニールによる固相結晶化の条件を適宜改善ならびに最適化しながら実験研究を進めている。当初は、真空中および雰囲気制御下において固相結晶化を行う実験を計画していたが、これまでの研究に用いた装置を改良した大気中のレーザアニーリングにより、ワイドギャップ半導体の低温配向結晶化において明瞭な進捗がみられたため、そちらに注力して進展させてデータと知見を得ることができた。 上記をふまえ、準備を進めていた薄膜レーザアニール装置を平成27年度に取得しなかったためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度以降の研究では、ワイドバンドギャップ半導体薄膜の低温エピタキシープロセスとメカニズムを追究するため、レーザ強度と使用波長や雰囲気が薄膜構造に与える影響について系統的データの蓄積と解析にも取り組む。 平成27年度までの研究で得られた基礎的なデータと知見をもとにレーザ光学系および装置設計のブラッシュアップをすすめており、薄膜レーザアニール装置を構成する真空部品や光学部品の調達に使用する。TEM観察や放射光解析などを行うほか、単結晶基板や無機固体原料とレーザガスなど消耗品に使用する。平成27年度までに得られたデータや知見に加えて、一段進展した発展的な成果が見込めるため、国内国外での成果発信の機会の増加も検討しており、そこに充てる。
|