研究課題/領域番号 |
15K20989
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
茂木 克雄 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20610950)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エクソソーム / イオン濃度分極 / イオン欠乏領域 / ion concentration / ion depletion zone |
研究実績の概要 |
イオン濃度分極によるイオン欠乏領域の隔壁作用を利用する精良な単離・濃縮手法を実現するために、当該年度はイオン濃度分極の原理評価のためのデバイスを製作した。 デバイスの機構については、構成要素を必要最小限にすることで、現象の基礎的な評価を可能にした。このデバイスを用いて複数種類の帯電粒子に対して単離・濃縮実験を実施した。単離・濃縮実験では、デバイスへ印過する電圧や粒子溶液の送液流量が変化すると、隔壁作用による斥力もその変化に追随して増減することが分かった。結果として、印過電圧や送液流量による静電力と流体力をパラメータとすることで、隔壁作用による斥力が制御可能であることが明らかになった。 また、隔壁作用による斥力は、それを受ける帯電物質のサイズや帯電量によって大きく異なることも明らかになった。特に、当初想定していなかった興味深い現象として、生体内物質のモデルとしてアルブミンを使用した結果では、斥力ではなく引力が働いているような現象が新たに観測された。我々は、本研究で当初予定していた内容からさらに一歩踏み込んで、この斥力と引力の切り替わりが溶液内の各イオン種の濃度分布の重ね合わせから起こる現象であるという仮説を立て、この仮説を立証するために溶液内イオンの濃度分布の計測を開始した。 以上の成果については、10月に行われた第7回マイクロ・ナノ工学シンポジウムで発表するとともに、現在電気学会誌に論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に実施したイオン欠乏領域の隔壁作用の検証は順調に完了しているため、次年度は予定通り、エクソソームを含む生体内物質の効果的な単離・濃縮のための検証を進めて行く。 一方で、当該年度の実験により新たに確認された現象について追加で検証を進めようと考えているが、検証実験とデバイス製作を並行して進めることで、プロジェクト進捗への影響は無いものと判断した。さらにプロジェクトを促進させるために、評価に必要なエクソソームを大量に準備する施策を取っている。
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今後の研究の推進方策 |
生体内物質の単離・濃縮率を向上させるため、当該年度のデバイスの機構を並列化させた生体内物質用の単離・濃縮デバイスを製作して、濃縮率や濃縮後の物質の変性の有無について検証を進めて行く。使用する生体内物質としては、アルブミン、デキストラン、エクソソームを用いることとし、入手が困難なエクソソームについては、常時利用できるように、独自で培養細胞から大量抽出して準備することでプロジェクトを促進させる。検証が困難な生体内物質の変性の有無については、4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアム(慶大、早大、東大、東工大)の共有装置の液中計測が可能な原子間力顕微鏡を使用して評価する。 また並行して、当該年度の実験により新たに確認された複数のイオン種が起因すると推測できる現象について検証を進めていく。検証方法としては、インジケータ試薬を利用したpH計測によりプロトンの可視化を実施しようとしている。この結果を踏まえて、すでに試作した数理モデルに、非定常なイオン濃度分布の影響を取り入れたモデルを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、国際学会での発表を見送ったため、旅費として使用予定の額が次年度に繰り越された。
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次年度使用額の使用計画 |
国際学会で研究成果を発表するための旅費として使用する予定である。
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