研究課題/領域番号 |
15K20992
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石毛 亮平 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (20625264)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポリアミド酸エステル / リオトロピック液晶 / 全芳香族ポリイミド / せん断流動配向 / 広角X線回折 / 偏光赤外分光法 |
研究実績の概要 |
PMDAのp-ハーフエステル体(エチル,ブチル,ヘキシル,オクチル,デシル,ドデシルエステル)とTFDBより,側鎖炭素数nが2,4,6,8,12となるポリアミド酸エステル(各々PAE-2,PAE-4,PAE-6,PAE-8,PAE-10,PAE-12と呼称する)について,これらのNMP溶液のリオトロピック液晶挙動およびせん断変形印加による配向挙動を評価した.その結果,各PAEのNMP溶液の臨界濃度は30~40 wt%であり,PAE-2とPAE-4の溶液については100 °C付近までゲル相を形成し,成型加工性に乏しいことが判明した(液晶発現温度まで加温するとNMP溶媒が揮発し,十分な流動性を得られなかった).一方,PAE-6以降のPAEは比較的低温でリオトロピック液晶性を発現した(PAE-6が60 °C以上,PAE-8が40 °C,PAE-10,PAE-12に至っては室温で十分な流動性を示した).また,これらのPAE溶液はnの増大と共に臨界濃度も増加することが分かった.これらnが6以上のPAEについて,加温下でせん断変形を印加した後に,直ちに水へ浸漬しNMP溶媒を除去することで,高配向の前駆体PAEフィルムを調製した.この配向フィルムについて,放射光X線源を利用した時間分解温度可変の広角X線回折測定を高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)のフォトンファクトリー(BL-6A,BL-10C)にて実施し,イミド化過程における秩序構造及び分子鎖配向を評価した.その結果,PAEフィルムは高配向(一軸性の配向秩序度Sが0.4以上)なスメクチック様の秩序構造を形成し,さらに昇温に伴うイミド化反応により自発的にSが0.1~0.2程度増大することを見出した.すなわち,PAEの液晶配向場を利用したイミド化反応により,剛直なポリイミド(PI)分子を高度に一軸配向させることに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は,PI前駆体NMP溶液の相転移挙動およびそのイミド化過程における秩序構造・配向評価を放射光X線源に基づくin-situ広角X線回折測定により評価することに成功し,ほぼ当初の研究計画どおりに研究が進展した.一方,PAE膜の配向方法を種々検討したところ,せん断流動に基づく方法ではおよそ1ミクロンの厚みが最小値であることが分かった.この膜厚は透過赤外分光法に対しては十分な薄さであるが,薄膜近似下で解析を行うpMAIRS法に対しては厚すぎることが判明した(pMAIRS法では300 nm以下の膜厚が要求される).
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は,これまでの知見を基にPAE膜から平滑性の高い高配向ポリイミド薄膜を調製し,このPI膜上での液晶分子の配向挙動の評価を通じて,PI分子界面における液晶分子配向機構の解明を目指す.液晶分子とPI分子の極性基の相互作用が重要であると考えられるため,PI膜の分子鎖配向のみならず,イミド環面(カルボニル基)の配向を含めた分子の三次元配向評価手法の確立を目指す.前述のように,現状ではpMAIRS法の解析に耐えうる薄膜の調製が困難であるためATR(全反射)赤外分光に基づく評価法開発を進める.すでに,押し付け圧を保持したまま,試料を入射面に対して回転可能なATR測定用ステージを準備し,再現性の高い測定が可能であることを実証済みである.
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次年度使用額が生じた理由 |
赤外分光測定用に購入を検討していたシリコン基板を本課題とは別の共同研究先のご厚意により提供いただけたため,当初の予定よりから差額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の差額は配向フィルムの顕微分光測定に必要となる回転ステージ(仰角制御)の製作費用に充てる.
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