前年度は,含フッ素全芳香族ポリイミド(PI)の前駆体の一種であるPM-n(nは側鎖アルキル基の炭素数で,2,4,6,8,10,12)の濃厚溶液(NMP溶媒)が等方相を含まない均一なスメクチック液晶を発現することを解明し,この配向試料の昇温過程におけるin-situ広角X線回折測定からイミド化過程において分子鎖の配向度が自発的に(外力のない自由端の状態で)増大することを明らかにした(0.5から0.9).ただし,このリオトロピック・スメクチック液晶溶液は極めて粘性が高く,単純な塗工過程では配向膜に適した100 nm程度の均一薄膜を得ることが困難であった.製膜性の向上には,溶液の粘性低減が必須であり,溶液濃度を下げることが常套手段であるが,せん断により誘起された配向が液晶の発現を待たずに緩和する問題がある.そこで本年度は,希薄溶液からどの程度の速度で安定した液晶相が出現するかについて検討した.具体的には,PM-nの希薄溶液(1wt%)を親水基板上にスピンコート後,窒素気流下70 °Cにて速乾することで得られる薄膜について,微小角入射X線回折(GI-WAXD)測定,ならびに赤外p偏光多角入射分解分光法(pMAIRS法)から,各々別個に分子鎖の配向度を評価し,液晶領域の分率について考察した.GI-WAXD測定からは液晶領域の配向度SGIが,pMAIRS法からは液晶領域と非晶領域を含む膜全域の平均配向度SIRが評価できる.その結果,全てのPM-nにおいてSGI > SIRとなることが判明し,速乾膜が非晶領域を多分に含有することが明らかとなった.前年度に検討した濃厚溶液は粉末状試料をNMPで膨潤させつつ希釈して調製したのに対し,本年度の検討では等方相溶液からの濃縮により急激に固化した点に大きな差異があり,PM-nの液晶秩序化には予想以上に長い時間が必要であることが示唆された.
|