研究課題
女性の年収分布は、ここ25年間で低所得層、中間所得層では年収が減少し、高所得層では年収が増加した。低中所得層の年収下落はパート労働者の増加によって説明できるのに対し、高所得層の年収増加は、高学歴化や長期勤続化などの要因で説明できることが分かった。次に、2004年の配偶者特別控除一部廃止の既婚女性の労働供給に対する効果を分析した。その結果、2004年の税制改正は低収入の既婚女性の労働時間と収入を増加させた一方で、税制改正に直接的な影響を受けていない年収103万円以上の既婚女性に関しては、同時期に起こった夫の所得増加傾向を受け、税制改正によって顕著になった予算制約線上の屈曲点(つまり103万円)まで年収を低下させるという非連続な収入下落が見受けられた。結果として、女性の労働供給を増やす目的で導入された税制改正であったが、低所得層における収入増加と中高所得層の103万円への移動が起こり、皮肉にも、歴史的に存在する、日本の既婚女性の収入分布の103万円における「ゆがみ」はより顕著となった。この分析の一部は“The Impact of Tax Reform in Japan on the Work-Hour and Income Distributions of Married Women”として、ディスカッションペーパーとして刊行され、海外の学術雑誌に投稿中である。全体の分析は、財務省財務総合政策研究所機関誌『フィナンシャル・レビュー』の「女性の労働と税 ―データを用いた現状分析―」という章の中で平成28年6月に刊行される予定であり、最終稿はすでに提出済みである。
2: おおむね順調に進展している
すでにひとつの大きな目標であった政策評価分析を行い、財務省財務総合政策研究所機関誌『フィナンシャル・レビュー』の「女性の労働と税 ―データを用いた現状分析―」として分析の一部を完成物として出版できた点で研究は順調に進んでいると言える。今後は昨今の配偶者控除の議論をより発展させた分析を行い、海外学術雑誌に投稿中の論文を仕上げることに注力する。
今後配偶者控除に関しては新たな局面を迎える可能性が高いが、経済学の理論に基づいた政策提案をし、現在の各案に対してSimulationを行い、予測される結果をより精緻に議論する。その結果を国内外に発表し、現在国内で急務な課題に対してだけでなく、普遍的なインプリケーションを導くことを目標とする。
平成27年度は理論モデルの構築を慎重に行い、それに基づいたインターネット調査を平成28年度に行うこととしたため。
インターネット調査に充てる。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち謝辞記載あり 5件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
フィナンシャル・レビュー
巻: 6月号 ページ: in press
RIETI Discussion Paper Series
巻: 15-E-139 ページ: 1-34
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