研究課題/領域番号 |
15K21000
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
高芝 麻子 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (80712744)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日本漢詩 / 大沼枕山 / 詠史詩 / 歴代詠史百律 |
研究実績の概要 |
幕末から明治期の詠史詩を百首集めた詩集(以下『詠史百首』と称す)の刊行状況および扱っている題材について、重点的に調査を行った。その結果、現存している日本人の作品を集めた『詠史百首』は大沼枕山『歴代詠史百律』を除き、管見に限り全て日本史を題材としたものであることが分かった。またほとんどが絶句形式を用いており、律詩形式を用いる『詠史百首』は大沼枕山『歴代詠史百律』『日本詠史百律』などごく僅かなものにすぎなかった。幕末明治期はもとより日本史への興味が強まっていた時代であったため、日本史偏重は時代の趨勢でもあったであろうが、同時に、律詩での詠史が絶句より困難であり、また中国史を題材とする詠史を百首連作するためには多くの知識を必要とすることも、その傾向を生み出した理由と考えられる。しかしその日本史、絶句偏重は同時に『詠史百首』制作に関わる漢詩人たちの層の厚さをも示している。その証左として、徳島県立図書館所蔵の福田宇中『詠史百絶』の手稿など、市井の漢詩人とおぼしき人物の未刊行あるいは私家版の『詠史百首』が現存していることを確認した。福田宇中は徳島、中村正郷は茨城の人であり、『詠史百首』制作の流行は全国的なものであろうと考えられる。また、日本史を題材とした『詠史百首』は内容面において基本的に頼山陽らの日本史観に基づいており、新しい見解を述べようとする意識は見出しがたい事も分かってきた。その中で、敢えて中国史を題材とし、律詩形式で百首連作を行った大沼枕山『歴代詠史百律』は注目に値する。枕山はその作品の多くで歴史への独自の理解を呈示しており、幕末明治期の『詠史百首』ブームの中では異色の詩集であると見なすべきである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度末までに石川忠久氏、詹満江氏、市川桃子氏、遠藤星希氏、有木大輔氏、大戸温子氏らとともに『歴代詠史百律』の作品に対し48首めまでの訳注作業を行った。 徳島県立図書館において福田宇中『詠史百絶』の調査、および福生市郷土資料室において大沼枕山の書(軸装)を調査した。 また幕末明治期の『詠史百首』流行の中での大沼枕山『歴代詠史百律』の独特の立ち位置について、論攷をまとめるための資料整理を継続して行うとともに、当時の作詩の実態を解明するために、作詩の教本について「江戸時代の初学者向け漢詩教本に見える分類方法について」と題する論攷をまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)大沼枕山『歴代詠史百律』の訳注作業の継続。 (2)大沼枕山『歴代詠史百律』の独自の立ち位置を確認するための調査の継続。平成27年度には『詠史百首』の全体像を掴むため、主に出版状況などの調査を主としていたが、今後は作品の内容にまで踏み込んで、分析を行う。日本史を題材とする『詠史百首』の中において、大沼枕山『日本詠史百律』がどのような独自性を持つのか、あるいは持たないのかについても視野に入れ、日本史を読む詠史詩について広く調査をし、検討を加える。 (3)大沼枕山『歴代詠史百律』収載の詩には、別の詩題で他所(掛け軸など)に見られるものもあることが分かってきたので、『歴代詠史百律』という詩集の成立経緯についての調査、検討を行う。 (4)百首連作ではない詠史詩や、百首連作という行為そのものの持つ意味についても検討を加えるために、調査、分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍の調査のために遠方の図書館を訪問する予定だったが、一冊は所蔵している図書館において所在が判明せず、また別の資料については下調べが十分ではないことから平成27年度の調査を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
筑波大学図書館などへの資料調査の旅費およびに資料の複製に用いる。
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