研究課題
成人T細胞白血病(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)が感染した後、50年にもおよぶ長期の潜伏期を経て発症する予後不良の悪性疾患である。ATLの根治治療薬は、これまで開発されていない。我々は以前、難治性のKRAS変異型大腸癌細胞をマイクロRNA(miRNA)の発現導入によって合成致死に誘導させることを示した。この研究結果を基に、本研究ではATLの致死誘導遺伝子を標的とするmiRNAの発現導入により、ATL細胞選択的な治療法の確立を目指した。昨年度、ゲノムワイドshRNAライブラリーを用いたスクリーニングにより、ATL細胞選択的に生存と増殖に関与する遺伝子群を明らかにした。そこで、これら遺伝子群を標的とするmiRNAを予測解析した。今年度は、これらmiRNAをHTLV-1感染細胞と非感染細胞に発現導入し、細胞の増殖と生存への影響を確認した。当初、レンチウイルスを用いた方法により、細胞内のmiRNA発現誘導を計画していたものの、有意な発現誘導を行うことができなかった。そこで、合成2本鎖miRNAをトランスフェクションにより細胞内に導入する方法へと切り替えて実験を進めた。その結果、候補miRNAのうち、miR-X(論文発表前のため名前は伏せる)の発現導入により、HTLV-1感染細胞が選択的に増殖抑制されることが分かった。HTLV-1非感染細胞では、miR-Xによる増殖の影響は観察されなかった。miR-Xを発現導入した際、HTLV-1感染細胞はアポトーシスに誘導されなかったが、細胞周期が休止期に誘導されることが分かった。これらの結果は、miR-XがATL細胞を選択的に増殖抑制することを示している。本研究結果は、miR-XがATLに対する新たな治療薬の分子候補となりうることが明らかとなった。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Stem Cell Reports
巻: 7 ページ: 1116-1129
10.1016/j.stemcr.2016.11.003