本研究課題の実績は、大きく分けて3つある。 1つめは、中学生が、どのような状況・行為をいじめと認識しているか、その特徴を検討したことである。自由記述形式の調査研究により、「いじめ」から連想される行為・状況は、具体的なものから抽象的なものまで幅広いことが明らかとなった。また質問項目を用いた調査研究により、加害側が単数か複数か、あるいは継続的に行われているか否かよりも、被害を受けている側が反撃できるかどうか、がいじめか否かの最も大きな判断要因であること、ネット上のトラブルはいじめより犯罪と認識されやすいこと、言語的な攻撃はいじめと認識されにくい傾向にあることなどが明らかとなった。 2つめは、こういった中学生のいじめ認識と心理的変数を検討したことである。攻撃行動の実行頻度との関連を検討した結果、他者への攻撃をいじめと認識しやすい生徒は実際の攻撃行動の実行頻度が低い傾向にあることが示され、中学生のいじめ認識を深めることは、実際の行動を抑制する可能性が示唆された。なお、学級満足度とは具体的な関連が示されず、いじめ認識は、学級生活の満足感とは直接的に関連しないことが想定される。 3つめは、中学生のいじめ認識を深める心理教育の提案であり、具体的な項目が書かれたカードについて、いじめか否かを話し合う形式の心理教育を考案・実践した。その結果、この心理教育により、中学生のいじめに対する認識が深まったことが示唆された。また中学校教員へのアンケートから、この心理教育は、中学生のいじめに対する認識を深めたり、中学生のいじめに対する思考プロセスを教員が把握するのにも役立つことが示された。
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