研究実績の概要 |
【エルブリンによるMET誘導作用の検討】ヒト胃癌細胞株MKN45とヒト正常腹膜中皮細胞 (HPMC)を共培養すると、EMTマーカーであるN-cadherin, Vimentin, Snail2 の発現が亢進した。この系に細胞増殖抑制を起こさない低濃度エルブリンを投与すると、EMTマーカーの発現は減弱し、METが誘導可能であったが、5FUではこの現象を確認できなかった。また、HPMCにおいてもMKN45と共培養することでαSMAの発現が亢進し筋線維芽細胞様に形質転換した。これにエルブリンを作用させるとαSMAの発現は減弱し、METが誘導可能であった。 【線維化腫瘍モデルにおけるエルブリンの線維化抑制作用の検討】MKN45とHPMCを共培養の後、5000000個をヌードマウス皮下へ移植後8日目に低用量 (0.05mg, 0.1mg, 1.0mg/kg)のエルブリンをマウス尾静脈から投与し、28日目に犠牲死させ腫瘍系を測定した。腫瘍径はエルブリンの濃度依存性に縮小し、エルブリン投与が 0.05mg/kg であっても線維化は抑制された。 【線維化モデルに対するエルブリンの血管リモデリング作用の検討】前述と同様、移植8日目にエリブリンを投与し、28日目の犠牲死させる5分前にHoechst33342 を投与して腫瘍内に染み出たHoechst33342 の面積を計測したところ、エルブリンの用量依存性に血管外への漏出が増加した(薬剤のデリバリーが向上した)。さらに腫瘍切片における微小血管量を抗CD31抗体で免疫染色したところ、エルブリンの用量依存性に微小血管数が増加した。 【まとめ】以上から、エルブリンは殺細胞効果を示さない低濃度であっても癌細胞や間質細胞のEMT様変化を抑制した。また、腫瘍の線維化抑制作用や血管の再構築作用を認め、腹膜播種に代表される線維化腫瘍の新しい治療薬として期待される。
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