H28年度は、H27年度に確立した「ハマカー定数算定スキーム」の結果を原著論文にまとめ投稿した結果、本研究の計画段階では予想していなかった、以下の建設的なレフリーコメントを受け、その対応のための追加研究を実施した:(1)典型的な分子系での当該スキームの妥当性検証、(2)フィッティング関数・区間の検証である。これらの検証を通じて、研究計画の立案段階で想定していなかった、より汎用的なハマカー定数の第一原理算定スキームの開発に成功した。 (1)本研究対象の液体シリコン系では、ハマカー定数の実験値は存在せず、本研究提案スキームの妥当性を十分に検討できていないという指摘があった。そこで、ベンゼンのような典型分子で検証したところ、得られた結果は実験と非常に良く一致することがわかり、当該スキームの汎用性を確認できた。 (2)典型的な6-12レナードジョーンズ関数のみをフィッティング関数に採用していたが、その妥当性についての批判があった。また、本研究では、結合曲線の漸近形より分散力定数(C6定数)を算出するが、そのフィッティング区間選択の妥当性についても批判があがった。そこで、関数の当てはまりの良さをカイ二乗誤差で定量評価することで、関数・区間の選択基準について、系統的なスキームを確立した。各種フィッティング関数の比較・検討を通じて、C6定数算定スキームとして、結合エネルギーの相関エネルギー成分に着目し、R6乗分の1の関数形でフィッティングすると、当てはまり最良、かつ、C6のエラーバー最小となることがわかった。 以上の結果を取りまとめて原稿を修正して再投稿し、現在、査読中である。この追加研究を通じて、第一原理計算のみで巨視的な濡れ性現象を記述する接触角の算定可能性に気づき、そのアイディアをH29年度科研費若手(B)で提案したところ採択され、本研究を基盤とする新たな研究展開に繋がっている。
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