研究課題
反応性愛着障害(RAD)は、児童虐待により養育者との安定した愛着形成が阻害されることで発症する。養育者に安らぎを求めず、無関心で信頼しない、自己統制や感情調節が困難で自己肯定感が極端に低いなど社会性や感情面で反応性に問題があり、早期診断と適切な治療が必要だが未だ病態は明らかになっていない。本研究は脳イメージング(VBM、fMRI)を用いて反応性愛着障害特有の脳構造や脳機能障害の有無を特定し、神経基盤を解明することを目的とする。さらに、薬理学的介入に伴う脳賦活変化計測と生理学的指標の確立を目指している。DSM-5(米国精神医学会による国際診断基準)で診断した10~15歳のRAD児16名(12.6 ± 2.0歳)と年齢と性別、利き手を一致させた定型発達児20名(12.7 ± 1.8歳)に金銭報酬課題を行い、fMRIで神経賦活度を測定した。RAD群では定型発達児と比べて、高報酬獲得時に腹側線条体の賦活度が有意に低下していた (P < 0.05, corrected for multiple comparisons) 。また、回避的な対人関係の問題をより強く抱えている児ほど腹側線条体の脳活動が低下した。次に、10~15歳のRAD男児21名と年齢と性別、利き手を一致させた定型発達児28名に、オキシトシン点鼻単回投与による二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験を行い、金銭報酬課題を用いてfMRI検査で神経賦活度を測定した。RAD群では定型発達児と比べて腹側線条体の賦活度低下があることから、腹側線条体を関心領域として画像解析中である。今後さらに被験者数を増やし研究を進めることで、RADの報酬系機能低下のメカニズムや薬理学的介入による変化を評価したい。
2: おおむね順調に進展している
fMRIを用いた反応性愛着障害(RAD)群の脳機能画像解析により、定型発達群と比べて報酬系機能が低下しているというRADの病態解明につながる結果を明らかにできた。また、オキシトシン点鼻単回投与の二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験を現在まで安全に実施でき、解析段階に入っている。
愛着障害患者群と定型発達者群を対象とするオキシトシン点鼻単回投与の二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験について、対象者のさらなる蓄積とfMRI検査(報酬系課題などの認知課題)の実施を行い、脳活動変化を評価する。さらに、血液中オキシトシン濃度や患児が受けるストレス度の評価のためにホルモン濃度を測定し、養育環境や各種心理検査結果と脳形態・脳機能との相関を統計解析により確認することで、定型発達児と愛着障害児との発達過程の違いが脳形態・機能異常にどのように影響を与えるかを検証する。
今後の推進方策を遂行する必要があるため。
引き続き被験者追加のための謝金、ホルモン測定キットなどの分子生物学用消耗品の購入、実験補助者への人件費に使用し、遅滞なく研究計画を遂行する予定である。定型発達児と愛着障害児との発達過程の違いが脳形態・機能異常にどのように影響を与えるかを検証する。最終的に得られた成果を米国児童精神医学会議等の国内・国際学会で発表するとともに意見交換と情報収集を行い、論文作成を行って発信していきたいと考えている。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件) 図書 (1件)
PLoS ONE
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