研究課題/領域番号 |
15K21029
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中嶋 藍 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (60706331)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 嗅細胞 / 軸索投射 / 神経活動 |
研究実績の概要 |
マウス嗅覚系では、同一の嗅覚受容体(OR)を発現する嗅細胞は、互いにその軸索を収斂させ嗅球の特定の糸球体へと投射する。ORは神経活動を介して軸索選別分子の発現レベルを調節することで軸索の収斂を制御している。本研究課題では、さらに一次嗅細胞において軸索選別分子がOR依存的、かつ神経活動依存的に制御されるメカニズムを明らかにする。申請者は、OR の種類依存的かつ神経活動依存的に制御される軸索収斂分子群を複数同定してきた。Kirrel2、Semaphorin7A (Sema7A)、OL-protocadherin (OLpc)、protocadherin-17(pcdh17) はいずれも嗅細胞の軸索投射先である嗅球においては、糸球特異的かつモザイクな発現パターンを示す。本年度はこれらOR特異的かつ神経活動依存的に制御される軸索収斂分子群の遺伝子改変動物を用いた機能解析および発現解析を行った。 前者については、嗅細胞の一部の集団でのみ機能分子Kirrel2がノックアウトされたマウスを解析した。同じORを発現していても、Kirrel2発現細胞とノックアウトされた細胞とは別個の糸球体を形成したことから、この分子が嗅細胞の軸索末端の収斂に機能するという仮説が支持された。 また、Kirrel2、Sema7A、OLpc、pcdh17に関して、嗅球一個分に相当する糸球体における発現量を定量し、主成分分析やクラスタリングの手法による解析を行った。この結果、神経活動に対して正に発現が制御されている分子の多様な発現パターンにより、糸球体は複数のクラスターへと分離された。この発現パターンの多様性は一次元の軸だけでは説明することが出来ないため、神経活動の中に組み込まれたパターンといった活動量以外の情報が嗅細胞によって読み取られ軸索選別分子の発現が調節されていると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画においては、嗅細胞の軸索投射に関わると予測される分子について、遺伝子改変動物を用いた機能解析を年度計画としていた。実際に、分子の機能解析についてはコンディショナルノックアウトマウスの解析により『軸索末端に提示される分子が嗅覚受容体に特異的な糸球体の分離を規定する』という予測していた結果を得ることができている。 これに加えて、当初の研究計画には含まれていなかったものの、嗅細胞の軸索末端に提示される分子群の発現量を糸球体ごとに定量し、得られた大規模データを主成分分析、クラスタリングの手法を用いて解析することで分子の発現量の関係性を初めて明らかにすることができた。このデータにより、本申請課題における『嗅細胞の軸索末端における分子コードが軸索配線の特異性を規定する』という仮説にデータの実証を与えることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験(1)神経活動に駆動されるカルシウム動態の解析 神経細胞の電気的興奮は、細胞内における一過的なカルシウム濃度の上昇をもたらす。従って、このカルシウム濃度変化をモニターすることによって細胞の神経活動を間接的, 視覚的に検出することができる。そこで本研究では、近年開発された反応速度の速いカルシウム応答性蛍光タンパク質(GCaMP6f)を 嗅細胞特異的に発現させたマウスを用いてイメージングを行い、嗅細胞でのカルシウム動態を観察する。このシステムを利用し、特定の OR を発現する嗅細胞におけるカルシウム動態の記録を行う。具体的には、MOR23 プロモーター下流から特定の OR と Cre 組み替え酵素を 同時に発現させるトランスジェニックマウスを作成し、組み換え酵素の発現依存的に GCaMP6f を発現するマウスと掛け合わせる。特に、カルシウム動態のパターンと発現する OR の種類・軸索収斂分子の発現量との比較を重点的に行い、OR に応じた特異的パターン、及び収斂分子の発現誘導に必要なパターンを抽出する。 今後の実験(2) 神経活動を分子コードへと変換するシグナル機構の解明 実験 (1)と並行して、活動(カルシウム)依存的に活性が調節され、軸索収斂分子の発現制御に関わる具体的なシグナル伝達分子群を明らかにする。申請者は神経活動で活性が駆動されうる分子群の発現解析を行い、嗅細胞における発現プロファイルを明らかにしている(未発表データ)。その結果、同じサブファミリーに属する遺伝子であっても、サブタイプごとに様々な発現様式(発現時期、パターン)を示すことが判明した。本研究では、これらの分子の中でも発現レベルが高く、その発現時期が嗅細胞の軸索収斂の起こる時期と一致すると考えられるものに着目し機能解析を行う。
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