研究課題/領域番号 |
15K21030
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
山口 裕資 福井大学, 遠赤外領域開発研究センター, 特命助教 (10466675)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジャイロトロン / テラヘルツ / マグネトロン入射型電子銃 / ラミナー流 / 含浸カソード / 熱絶縁 |
研究実績の概要 |
テラヘルツ帯で動作する高周波ジャイロトロンの実用化を目標とし,重要な構成要素であるマグネトロン入射型電子銃の高性能化を進めている.本研究では,電子銃の含浸カソードにおいて,エミッタ部を他の部分と熱的に絶縁する構造に着目し,それが電子ビームの性能(ラミナー性,速度分散)へ与える影響を調べ,構造の最適化を目指す. まず,熱絶縁間隙の配置が異なる複数の電子銃を準備し,各々を搭載したジャイロトロンの発振特性を比較した.比較実験においては,電子銃の構造を除き,ジャイロトロンの運転諸量の全てを同一に制御する必要がある.特に電子ビーム電流は,他の設定量にも依存して変化しやすいため,PID 制御する機構を新たに製作し,高精度で一定に維持できる様に工夫した. 比較実験の結果,熱絶縁間隙がエミッタに近い場合,ジャイロトロンの発振効率が低下することがわかった.計算機シミュレーションの結果によれば,間隙部に生ずる静電ポテンシャルの歪みにより電子ビームのラミナー性が低下し,速度分散が増大したことで発振効率が低下したと説明できる.速度分散の増大に起因して磁気ミラー反射した電子ビームが,アノード電流として実験的にも観測された.また発振効率の低下に加え,発振の得られる領域(共振器磁場の範囲,カソード~アノード間電圧の範囲)が狭くなることも判明した.以上の知見について,国内外の学会で報告した. 一方,間隙の幅がエミッタ厚に比して充分小さい場合には,間隙の配置によらず静電ポテンシャルの歪みの影響は小さく,発振効率はほとんど低下しなかった.この電子銃は,0.3 THz のジャイロトロンへ搭載して発振効率 30% を実現し,目標出力 300 kW の達成に貢献している(国際学会,ならびに学術論文にて報告した). 2016 年に製作予定の電子銃では,上記の成果を踏まえて,エミッタ部の構造を最適化する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試作電子銃の準備が早い段階で完了したこと,製作した PID 制御装置が期待通りに機能したことから,電子ビームの性能評価実験がほぼ計画通りに進捗した.また実験結果は,計算機シミュレーションの結果が示す電子ビーム特性から,合理的に説明可能であることが判った.エミッタの熱絶縁構造が電子ビーム特性へ与える影響が,当初の予測に近いものであったため,想定していた最適化の指針に基づき,予定通りに最適化電子銃の設計に着手することができている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画にしたがい,研究を遂行する.本年度の早い段階で,最適化電子銃の設計を完了し,製作に入る.電子銃の製作には数か月を要する為,その間に,これまでの成果をまとめた学術論文の作成も進める.新しい電子銃は,0.4 THz 帯で複数の周波数にて発振させる事を目指したジャイロトロンへ搭載し,発振試験を行う予定である.実験の結果を計算結果と比較,吟味し,適切にまとめて報告する.
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次年度使用額が生じた理由 |
調達方法を工夫した事,効率的な使用に努めた事で残額が発生し,当初の計画より経費を節約できた為
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次年度使用額の使用計画 |
新しく製作する電子銃の機能向上に活用する.
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