自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: 以下ASDと略す)者は健常者と比べてワーキングメモリーが低く、注意が転導しやすいといった認知特性がある。本研究ではASD者の認知特性を考慮し、認知機能に影響されることなく、言語表現能力が十分でない対象者にも、嗅覚検知閾値を測定できるように開発した実験器具である"Fragrance Jet for Medical Checkup"を用いて、ASD者においても健常者と変わりなく嗅覚検知閾値を測定することに成功した。その結果、ASD者群とコントロール群とでは嗅覚特性が異なりASD者群では、バナナやパイナップルの香料といった多くの人にとって“馴染みのあるにおい”に対してコントロール群より鈍麻な傾向であることを明らかにした。またASD者において新しい環境への順応が難しいことは大きな問題であるが、“馴染みのあるにおい”に対して長時間暴露され順応した後に於いてもASD者群でコントロール群より鈍麻な傾向が続くことが示唆された。嗅覚検知閾値については好みが影響することも推測されたが、香料の好みについては、生育背景の影響を強く受けていること、極めて多様なことが推測された。また嗅覚刺激による脳変化の差異を継時的に捉えることを目的に、多チャンネル近赤外線分光法(Multi-channel Near- infrared Spectroscopy: MNIRS)を使用した実験を行ったところ、"Fragrance Jet for Medical Checkup"から放出された一部の香料刺激に対してASD者群とコントロール群とで反応が異なることを確認した。
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