経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の刺激方法を確立するために、それによる感覚機能の変化を健常者で観察した。 健常男性3名に対し、両側一次運動野に電極を設置し、1mAの強度でanodal-tDCS、cathodal-tDCSとsham刺激を実施した。感覚機能評価として、触覚閾値および最小電流閾値を評価した。その結果、3名中2名でanodal-tDCSによる触覚閾値と最小電流閾値の低下傾向を認めたが、その変化の程度にばらつきを認め、安定した刺激方法の検討が必要となった。 関連学会に参加し、tDCS刺激強度を2mAにすると、その効果がより増強するという情報を得たため、健常男性4名に対し、同様の方法で刺激強度を2mAに変更し、感覚機能評価を実施した。その結果、4名中3名でanodal-tDCSによる触覚閾値と最小電流閾値の低下を認めた。 左手関節より遠位に神経障害性疼痛を発症した脳梗塞患者1名に対してtDCSを行い、感覚機能評価(最小電流閾値)と疼痛評価(痛み対応電流)の変化を評価した。デザインとして、毎日、両側一次運動野に電極を設置し、刺激条件をanodal-tDCS 2mAまたはSham刺激のいずれかを無作為に行い、盲検化された評価者が評価する、N of 1 trialを実施した。その結果、anodal-tDCSを施行した4日中3日で最小電流閾値の低下を認め、4日中2日で痛み対応電流の低下を認めた。さらに、経時的に左手関節、手指の運動機能の改善も認めた。 これまでの研究でtDCSは、健常人および神経障害性疼痛患者の感覚閾値を変化させ、疼痛閾値を変化させる可能性がある事が推察された。その一方で、いずれも介入効果のばらつきが大きく、症例数を増やし、どのような特徴を有する症例に有効なのか更なる検討が必要であると考えられた。
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