本研究は、幼児が他者との関係性の中で、秘密をどのように扱うのかを調べることを目的に取り組んだものである。 最終年度は、前年度に引き続き、幼児期の自他理解の様相について、保護者が作成した子どもの養育記録を通して、幼児が愛着対象を中心とした環境世界への関心や信頼をどのようにひろげているのかに関する分析をおこなった。本研究の対象である幼児期にある子どもは、養育者との関係性が密接な乳児期とは異なり、一人の独立した存在として、他者とは違うかけがえのない「私」を確立していく時期にある。この自己の確立は、発達とともに徐々に他者と距離が生じていくという単純なものではなく、強く他者の存在を感じ、心的に重なり合う経験によって一層自己と他者との違いを理解していくというような複雑なものであると考えられる。そのため、母子間のやりとりに焦点を当てることにより、子どもが身近な他者とどのように関係を築いていくのかを検討したいと考えたためである。また、前年度までの分析内容については学会発表をおこない、日常的な文脈を活かした考察をすることによって、子どもの心理社会的成長とそれを支える養育者との愛着関係について報告した。これとは別に、幼児を対象に、他者の気持ちを考えて自分の気持ちを隠す行為に関する実験的検討もおこなった。 研究期間中、研究中断やcovid-19の影響があり計画変更が必要となったが、文献を通した秘密の意味に関する整理、秘密に関するエピソード収集と分析、他者との関係性の理解や変化に関する検討等を実施し、秘密を通した幼児期の自他理解の様相の一部を明らかにすることができた。ただし、収集したデータの分析とその成果発表が残っていることもあり、研究機関は終了しているが、引き続き研究に取り組むことを予定している。
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