研究課題/領域番号 |
15K21038
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
嶋田 五百里 信州大学, 学術研究院繊維学系, 助教 (40708187)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオマス / 脱酸素 / 接触分解 / 水素移行反応 |
研究実績の概要 |
本研究では、バイオオイルと重質油の混合接触分解により、バイオオイルの脱酸素化と芳香族炭化水素への転換を安価なプロセスで効率的に進行させることを目的としている。今年度(平成27年度)は、木質バイオマスの加溶媒分解によって調製したバイオオイルと重質油モデル物質との混合接触分解による脱酸素化の検討を行うとともに、前処理である加溶媒分解の条件が接触分解反応に及ぼす影響を調査した。加溶媒分解処理において木質バイオマスの十分な液化・低分子化が進行していない場合、接触分解反応装置内でのコーキングによる閉塞が起こり、炭化水素への転換は困難であった。一方、加溶媒分解処理条件を調整することで接触分解反応装置の閉塞を抑制し、炭化水素への転換が可能となった。なお、この検討の中で、加溶媒分解を用いて木質バイオマスの90%以上を液化する技術の開発に成功した。また、バイオオイルと重質油の混合接触分解の反応生成物分析の結果、バイオオイル中に含まれる酸素の90%以上が水として除去されることを確かめた。さらに、水素移行反応活性の異なる触媒を用いて検討を行い、水素移行反応活性が強くなるにつれて水としての脱酸素化が進行すること、すなわちバイオオイルと重質油の混合接触分解において水素移行型脱酸素反応が寄与することを確認した。これにより、接触分解プロセスを用いることでバイオオイルの炭素資源の損失を抑制しつつ脱酸素化を達成できることが示された。さらに、水素移行反応を活用した脱酸素化は木質バイオマス由来のバイオオイルだけでなく、油脂の接触分解においても進行することを確かめた。特に油脂の接触分解においては、エステル結合の脱酸素反応機構の詳細を解明するとともに、芳香族炭化水素生成に対して原料中の不飽和結合の存在が影響することも確かめられた。エステル結合以外の含酸素官能基の脱酸素反応機構に関しては次年度以降に検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的な検討事項である接触分解反応場での水素移行型脱酸素反応の進行を確認し、バイオオイルの脱酸素化に重質油との混合接触分解が有効であることを示すことができた。また、研究当初は木質バイオマスの加溶媒分解によるバイオオイルの調製が不完全であったため、接触分解反応装置での閉塞が進行し反応解析が困難であったが、加溶媒分解処理条件の検討を行うことでその問題を解決することができた。さらに、水素移行型脱酸素反応の反応機構について詳細な解析を行い、特にエステル結合の脱酸素反応については詳細な反応機構を明らかにすることができた。これらの成果は化学工学会にて発表を行っており、今後論文投稿を行う予定である。以上を勘案し、本研究は概ね順調に進められていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では木質バイオマス由来のバイオオイルを原料に用いて検討を行い、脱酸素反応の進行を確認してきたが、バイオオイルの組成が複雑であるために脱酸素反応機構の詳細を解明することはできていない。そこで次年度は、バイオオイルの多く含まれる構造を持つモデル物質を用いた反応試験を行い、反応生成物分析を行うことで、反応中間体の検出や律速段階に関する知見を集め、様々な含酸素官能基の水素移行型脱酸素反応機構の詳細な解明に取り組む。また、今年度作製に取り組んだパルス反応器システムを完成させ、極めて短い接触時間での反応解析を行うことで反応初期の反応経路に関する知見の獲得も行う。また、これまでの研究では、木質バイオマス原料に含まれるセルロースやヘミセルロースを軽質炭化水素に変換することができたのに対し、リグニンは重合を起こしやすく、目標としていた単環芳香族炭化水素への転換は達成できていない。そこで、様々な機能を持つゼオライト触媒を組み合わせた複合触媒を適用することで、リグニンの重合の抑制と単環芳香族炭化水素への転換に取り組む。
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