研究課題
細菌や古細菌を含む原核生物は、細胞外に直径20-200 nmのナノ粒子であるベシクルを分泌する。リン脂質二重層で構成されるベシクルはDNAや酵素、病原因子等の物質を高濃度に含有し、宿主細胞や他の微生物細胞に内部の物質を送り届ける媒体として機能している。しかし、分泌されたベシクルがどの細胞に内包物質を伝達するのか、その点について未知な点が多い。本研究では、微生物から分泌されたベシクルの標的指向性を解明するとともに、標的の微生物細胞へ物質を運搬するツールとしての新しいベシクル利用法を提示することを目的としている。様々な細菌を対象に、分泌されたベシクルと微生物細胞への結合性を網羅的に解析した。多くの細菌から分泌されるベシクルは多種多様の細菌に非特異的に結合したのに対し、Enterobacteriaceae科に属する細菌のベシクルは、同属の細菌に特異的に結合する事が示された。当細菌におけるベシクルの特異的結合メカニズムを解析するために、細胞とベシクルの粒子径ならびに表面電位を解析した。その結果、当細菌が分泌するベシクルと同属細菌間では静電的反発力が低い事が示された。また、金コロイド標識透過電子顕微鏡法により観察を行ったところ、ベシクルは細胞表面に吸着するだけではなく、同属の細胞に融合している様子が観察された。さらに、ベシクルを介して同属細菌に効率的にDNA伝達する現象も確認された。以上の結果により、ベシクルを介して特定の細胞に情報を伝達する例が初めて示され、標的細胞に物質を送達するツールとしてベシクルの有用性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、微生物分泌性ベシクルを介して行われる選択的情報伝達機構を解析し、複合微生物系内の標的微生物細胞のみに物質を送達する新規技術確立に繋げる事を目的としている。平成27年度では、細胞-ベシクル間の物理化学的エネルギーが標的微生物細胞への作用に重要であることを示すとともに、実際にベシクルを介してDNAを伝播している事を示した。以上から、順調に進展していると判断した。
今後はベシクル-微生物細胞間における特異的相互作用のメカニズムを解明し、標的微生物のみを制御する新規技術の基盤を構築する。具体的には、ベシクルのプロテオーム解析を行い、ベシクルが標的細胞を認識する際に働く因子を特定する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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