多くの微生物は、細胞外に直径20-200 nmのナノ粒子であるベシクルを分泌している。リン脂質二重層で構成されるベシクルはDNAや酵素、病原因子等の物質を高濃度に含有しており、他の細胞に内部の物質を送り届ける媒体として機能している。しかし、分泌されたベシクルがどの細胞に作用するのか、ベシクルの受け取り側に関して未解明な部分が多い。本研究では、微生物から分泌されたベシクルと微生物細胞間における特異性の有無を検証するとともに、ベシクルを標的の微生物細胞へ物質を運搬するツールとして利用するためのプラットフォーム構築を目的としている。初年度はEnterobacteriaceae科に属するButtiauxella 属細菌がベシクルを同属内情報伝達ツールとして利用している点を示した。平成28年度は、そのメカニズムを解明することにより、ベシクルを用いた物質送達に繋がる知見を得ることを目指した。 Buttiauxella 属に分類される7種の細菌を対象にベシクルの取り込みを解析したところ、全ての細菌で同種が分泌するベシクルに対する高い取り込み能が確認された。また、紫外線照射した微生物細胞であってもベシクル取り込みは起こることが示された。ベシクルならびに微生物細胞から細胞外マトリクスを除去した場合、あるいはプロテナーゼ処理を行った場合に微生物細胞-ベシクル間の結合が低下したことから、膜表層に存在するタンパク質がベシクル取り込みに関与している可能性が示された。そこで、B. agrestisが分泌するベシクルを精製し、その構成タンパク質を質量分析により同定した。ベシクルの構成タンパク質をコードする遺伝子の欠損株を作製したところ、特定のタンパク質の欠落によりベシクル取り込みが低下することが見いだされた。以上の実験により、微生物細胞がベシクルを取り込む際に関与する因子が初めて示された。
|