研究課題/領域番号 |
15K21046
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
仙石 哲也 静岡大学, 工学部, 准教授 (70451680)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | テトラミン酸 / ピリジン誘導体 / 光学活性 / ビピリジン |
研究実績の概要 |
前年の検討よりテトラミン酸と酢酸アンモニウムから得られるエナミン体のメタノール溶液に対し、テトラミン酸とベンズアルデヒドから調製したエノン体とクエン酸を添加し反応させることで、ジヒドロピリジン体が生成することをみいだしている。さらに、これを直ちに二酸化マンガンで処理することで、光学活性なピリジン誘導体へと導くことが可能であった。 基質汎用性の調査と利用可能なピリジン誘導体の拡充を目的に、上記条件を用い置換基の異なる非対称型キラルピリジン誘導体の合成を試みた。種々のアミノ酸から誘導したエノン体に対して、別途調製したβ-ケトカルボニル化合物を作用させることで様々な非対称型キラルピリジン誘導体を合成できたものの、一部基質についてはエピ化によってエナンチオマー過剰率が低下することが明らかとなった。 上述の合成にてエナンチオマー過剰率が低下した化合物に対し、光学純度を向上させる目的で再結晶を試みた。エナンチオマー混合物を種々の溶媒に溶解して結晶化を試みたところ、一方のエナンチオマーを優先的に回収可能であった。最終的に、この操作を複数回繰り返すことにより単一のエナンチオマーを得ることに成功した。 合成した化合物を用い、パラジウムに対する配位子としての機能性を調査した。対称型キラルピリジン誘導体を用いた反応は全く進行しないのに対し、ビピリジン型誘導体を用いることで高い変換効率で反応が進行することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クエン酸を添加剤とする最適条件を用い、置換基の異なる非対称型キラルピリジン誘導体の合成を行った。L-フェニルアラニン由来のテトラミン酸から誘導したエノン体に対し、ケトン、N-フェニルアミド、またはエステルと共役したエナミン体を作用させたところ、いずれも高い反応性を示し、78~93%で光学的に純粋な非対称ピリジン誘導体へと導くことが可能であった。また、ピリジン環が連結したエナミンを用いる反応も良好に進行し、その結果キラルビピリジン誘導体も合成可能となった。カルボニル基と共役しないエナミンについては基質の調製が困難であったことから、失敗に終わっている。L-セリン由来のテトラミン酸から誘導したエノンを用いるビピリジン誘導体の合成も検討しているが、エピ化の進行によるエナンチオマー過剰率の低下が確認された。この誘導体合成について種々検討した結果、室温下でもエピ化が進行しており、それを抑制することが極めて困難であることがわかったことから、精製による光学純度の向上を試みた。75% ee のエナンチオマー混合物に対し酢酸エチルを溶媒として2度再結晶することで、>99% eeの目的物を得ることに成功した。 さらに、上記のピリジン誘導体の配位子としての機能を調査した。まず、対称型ピリジン誘導体とビピリジン誘導体に対し、パラジウムまたは銅試薬を作用させ、錯形成反応を試みたものの、スペクトル測定による錯形成の確認は失敗に終わった。そこで、辻-トロスト反応をモデルとする評価を検討したところ、対称型誘導体を用いる反応は全く進行しないのに対し、ビピリジン型誘導体では目的生成物を与えた。この結果は、後者がパラジウムに対する配位子として機能していることを示唆しており、今後の反応開発において極めて重要な成果である。このことから、当該研究は概ね順調に進展したものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
現状において本研究で合成したキラルビピリジン誘導体のパラジウム触媒反応に対する反応促進効果は確認されているが、十分なエナンチオ選択性は発現していない。平成29年度は有効な不斉反応場を構築する誘導体構造の探索を目指し、辻-トロスト型反応を評価モデルとして研究を進める。具体的には、ラクタム環の開環によりピリジン周りの不斉点の自由度を変化させ、これに伴う立体選択性の変化を調査する。また、誘導体分子内に存在するカルボニル基を除去することで電子密度を向上させ、金属への配位をより強固なものとすることを試みる。これらの検討に平行してC(sp3)-H活性化反応への適応も進め、カルボニルα位への触媒的不斉導入を目指す。
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